日本でヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種の公費助成が開始された2010年時点で接種対象年齢であった女性は、現在20歳代半ばを迎えている。新潟大学大学院産科婦人科学教授の榎本隆之氏、准教授の関根正幸氏、黒澤めぐみ氏らの研究グループは、実臨床データを用いて高リスク型HPVの感染予防における2価HPVワクチンの長期有効性を検討。接種から約9年経過した時点で、HPV16/18型の感染率は0%と長期予防効果が認められたことを、Cancer Sci2022年1月31日オンライン版)に報告した。同ワクチンの長期有効性を明らかにした日本の研究は初めて。関根氏は「12~16歳でHPVワクチン接種を受けた女性には朗報だ。ワクチンの最大の効果を享受するには初交前に接種することが重要で、対象年齢の女性と保護者に周知する必要がある」としている(関連記事「HPV感染率上昇、ワクチン勧奨中止の代償」「HPVワクチン再開後の課題は?」)。

1993~94年生まれの25~26歳の女性429例を解析

 日本国内では、2010年に13~16歳の女児を対象としたHPVワクチン接種の公費助成が開始され、2013年4月には12~16歳を対象に定期接種化された。しかし、その2カ月後に積極的勧奨の中止が発表され、ワクチン接種率は約70%から1%未満まで低下。Nakagawaらの報告(Cancer Sci 2020; 111: 2156-2162)によると、接種率は1994年生まれの女性の55.5%、1995~99年生まれの女性の75.7%に対し、2000年生まれの女性では14.3%と大幅に低下し、2001年以降に生まれた女性では1%未満となっている。

 新潟大学では、これまでに2価HPVワクチンの接種が20歳代前半の女性におけるHPV感染や細胞診異常、組織診異常を減少させたことを報告しているが、25歳以降の女性における長期的な有効性に関する日本からの報告はなかった。しかし、HPV感染率がピークに達する時期は性的活動性が最も高まる23~26歳であることが明らかにされている。そこで同氏らは、今回、公費助成開始時に接種対象年齢であった1994年生まれの女性と、公費助成開始前世代の1993年生まれの女性を対象に、2価HPVワクチン接種から約9年が経過した25歳前後における長期の感染予防効果を検証した。

 解析対象は、1993~94年に出生し、2019年4月~20年3月に新潟市内で子宮頸がん検診とHPV検査を受けた25~26歳の女性429例。HPVワクチン接種歴と性的活動性(初回性交年齢、性交経験人数)は質問票を用いて調査し、接種歴については自治体の接種記録も確認した。

 対象のうち150例(35.0%)にHPVワクチンの接種歴があり(ワクチン接種群)、279例(65.0%)は接種歴がなかった(ワクチン非接種群)。HPVワクチン接種からHPV検査までの平均期間は102.7カ月(8.6年)、中央値は103カ月(範囲92~109カ月)だった。また、ワクチンの接種群と非接種群で初回性交年齢および過去の性交経験人数に有意差はなかった。

HPV31/45/52型にも交叉防御効果示す

 ワクチン接種群とワクチン非接種群におけるHPV感染率を比較した結果、高リスク型(HPV16/18/31/33/35/39/45/51/52/56/58/59/68型)の感染率はそれぞれ21.3%、23.7%だった(P=0.63)。

 一方、高リスク型HPVのうち2価ワクチンが標的とする16/18型の感染率は、ワクチン非接種群の5.4%に対してワクチン接種群では0%と有意に低く(P=0.0018)、ワクチンの有効率は100%であることが示された。また、HPV31/45/52型の感染率も、ワクチン非接種群の10.0%に対してワクチン接種群では3.3%と有意に低く(P=0.013)、有効率は69.0%と交叉防御効果(cross-protection)があることが示された()。

図. HPVワクチン接種者と非接種者におけるHPV感染率の比較

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(関根正幸氏提供)

 さらに、ウイルス型別に見ると、ワクチン接種群ではHPV16/18/33/45型の感染率が0%だったのに対し、ワクチン非接種群では16型が5.0%、18/33/45型は0.7%と、これらの型に対する2価ワクチンの有効率の高さが示された。

 研究グループは「実臨床データを用いた研究により、ワクチン接種から9年が経過した25~26歳の日本人女性において、HPV感染に対する2価ワクチンの長期の有効性が初めて示された」と結論。また、積極的勧奨の中止以降、「接種機会を逃した世代は現在20歳代となり、性的活動性が最も高まる年齢に到達している。25歳時点でもワクチンによるHPV感染の持続予防効果が確認されたことは、ワクチンを接種した女性へのメッセージとして重要だ」と指摘。その上で、積極的勧奨の再開後には、①メディアによる正確かつ科学的な情報の発信・普及、②行動経済学的アプローチによる啓発活動、③キャッチアップ接種政策の実施、④予防接種プログラム(NIP)における9価ワクチンの導入―を求めている。

 一方で、「ワクチンのHPV感染予防効果は25歳になると消失するわけではないが、ワクチンを接種した女性でも、子宮頸がん検診は必ず受ける必要がある」と訴えている。

(編集部)