岸田文雄首相が新型コロナウイルス対策の「まん延防止等重点措置」を2カ月半ぶりに全面解除する方針を表明した。これ以上長引けば、夏の参院選を前に政権批判が強まりかねないと焦りを募らせた結果だ。ルールを変え、ようやく出口にこぎ着けた形だが、専門家の間では感染「第7波」到来の懸念も強い。
 ◇布石
 「重点措置は21日をもって全て解除する。第6波の出口ははっきり見えてきた」。首相は16日夜の記者会見でこう宣言した。
 重点措置解除の基準として、政府はこれまで(1)新規感染者数が減少傾向(2)病床使用率が50%未満―の双方を満たすことを重視してきた。これに対して最新のデータでは、適用中の18都道府県のうち青森など4県の新規感染者数が増加傾向にあり、大阪など別の5府県の病床使用率が50%以上。従来の基準に照らせば、これら9府県は重点措置を延長しなければならない状況だ。
 それでも首相が解除に踏み切れたのは、11日の新型コロナウイルス感染症対策分科会に新たな解除基準を提示し、了承を得ていたからだ。新基準では、新規感染者数か病床使用率のいずれかが低下傾向にあれば、重点措置の解除が可能だ。
 ◇大義名分
 首相がルールを変えてでも全面解除にこだわったのはなぜか。変異株「オミクロン株」は重症化率が低く、従来のルールは厳しすぎるとの指摘が専門家の間にあったのは事実。これに加え、内閣支持率を重視する姿勢も背景に見え隠れする。
 首相は当初、重点措置が31都道府県で一斉に期限を迎える今月6日での全面解除を模索。しかし、18都道府県で延長せざるを得なくなった。周辺はこの直後、「もう一度延長することになれば政権への打撃になる。21日に全面解除する大義名分をつくらなければならない」と語っていた。
 解除基準の変更こそ、この「大義名分づくり」だったようだ。参院選は首相が安定政権を築けるかどうかの分水嶺(れい)になるとみられ、政府関係者は新基準について「政権の思惑が透ける」と指摘した。
 ◇不安
 もっとも、専門家の間では新規感染者数や病床使用率が下がり切らない中での解除を不安視する声は少なくない。「第6波」の中心だったオミクロン株より感染力が強いとされる、その別系統「BA.2」が国内で広がりつつあり、感染再拡大に転じる恐れは否定できない。
 分科会の尾身茂会長は16日の参院厚生労働委員会で「東京都では3割がBA.2になっており、全国でもいずれ置き換わる」と指摘。「今後は春休みや歓送迎会も予想される。重点措置を解除しても、基本的感染対策をしっかり継続することが極めて重要だ」と警鐘を鳴らした。
 政府・与党も神経をとがらせる。自民党幹部の一人は「リバウンドも第7波もあり得る。それが参院選前に来ない保証はない」と危機感を示し、政府高官は「どうなるか神のみぞ知る」と語った。 (C)時事通信社