近畿大学理工学部生命科学科准教授の早坂晴子氏らは、マウスを用いた実験で細胞遊走を誘導するケモカインの役割を分析。その結果、乳がん組織で発現したケモカインCXCL12による刺激がケモカインCCL21の細胞遊走を誘導してリンパ節転移につながるという「リンパ節転移のメカニズム」が明らかになったと、Cancer Sci2022年2月8日オンライン版)に発表した。

CXCL12とCCL21の役割を解明

 細胞の組織への遊走に関わるケモカインは、がん組織で発現して原発巣における細胞増殖やリンパ節転移を促進させることが分かっている。しかし、ケモカインのがん細胞に対する作用や、リンパ節転移を促進する詳細な機序については不明であった。

 そこで早坂氏らは、乳がん細胞のリンパ節転移につながる機序を解明するため、乳がん形成モデルマウスを用いた実験で細胞遊走を誘導するケモカインの役割を検討した。

乳がん細胞へのCXCL12前処理で、CCL21応答性が増強

 ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231細胞から、リンパ節に高頻度で転移する乳がん細胞株を樹立。このリンパ節高転移細胞株では、元の細胞株に比べCCL21(受容体CCR7に結合するケモカイン)により誘導される高分子膜への浸潤能が活発化していた。また、転移モデルマウスでは、CCR7依存的にリンパ節転移が活発化することが確認された。これらから、CCL21とその受容体であるCCR7によってリンパ節転移が調節されていることが示唆された。

 CXCL12とCCL21はいずれもリンパ節で発現しており、がん細胞のリンパ節転移との関連が指摘されている。そこで、細胞遊走と高分子膜への浸潤能に対するCXCL12とCCL21の協働性を検討。乳がん細胞をCXCL12で前処理すると、CCL21に対する応答性が強まることが示された。

 これまでに早坂氏らは、CCL21に対する応答性は受容体CCR7の二量体化(2つの分子が接近して存在)により調節されていることを明らかにしている。CXCL12の前処理が乳がん細胞に及ぼす影響を検討したところ、CCR7の二量体化が促進されるとともにCCL21の結合能が亢進することが示された。また、乳がん細胞株を移植したマウスに形成された腫瘍組織を解析すると、CXCL12は腫瘍間質に、CCL21はリンパ管周囲に発現していた。

生体組織モデルでの検討

 人工的な生体組織モデルを用いて、ケモカインが乳がん細胞の遊走に及ぼす影響を検討したところ、CXCL12で前処理した乳がん細胞は、CCL21が集中するリンパ管周囲に局在していた。これにより、CXCL12がCCL21に対する細胞応答性を促進し、リンパ管周囲に乳がん細胞が遊走しやすくなることで、リンパ節転移が活発化する可能性が示唆された。

 以上から、早坂氏らは「乳がん細胞が腫瘍間質に発現したケモカインCXCL12によって刺激されることで、リンパ管内皮細胞から産生されるケモカインCCL21の細胞遊走を誘導し、リンパ節転移につながることが示された」と結論。「今後は他のがん種についてもケモカインの種類と役割を解析することで、がん転移の詳細が明らかになるはずだ」と期待を寄せている。

(比企野綾子)