気分(感情)障害患者約3万6,000例を対象とした研究で、8.2%が転倒または骨折による入院を経験し、入院が長期化するリスクが高いことが、英・King's College LondonのRuimin Ma氏らが実施した後ろ向きコホート研究で明らかになった。転倒や骨折の発生には、高齢、鎮痛薬の服用、転倒や骨折の既往が有意に関連することが示され、結果の詳細がBMJ Open(2022 ;12 :e055070)に報告された。

SLaMの電子カルテデータを後ろ向きに解析

 うつ病や双極性障害などの気分障害や統合失調症といった精神的な健康上の問題がある患者では、一般集団と比べて転倒や骨折のリスクが高い可能性が報告されているが、これらに関するエビデンスは乏しい。そこで、Ma氏らは、英国の大規模な患者コホートの電子カルテデータを用いて、転倒および骨折による入院の危険因子を探ることを目的に後ろ向きコホート研究を実施した。

 研究では、ロンドン南部で人口130万人を超える地区をカバーし、欧州で最大規模の精神科および認知症医療を提供するSouth London & Maudsley NHS(国民保健サービス)財団(SLaM)のBiomedical Research Centre(バイオメディカル研究センター、BRC)が有する電子カルテデータを用いた。

 2008年1月~16年3月に、国際疾病分類(ICD-10コードF30-F34)の診断基準で気分(感情)障害と診断された18歳以上の3万6,101例(平均年齢44.4歳、女性60.2%)を対象とし、電子カルテデータを全国の病院における入院、外来および救急の医療情報を収集したHospital Episode Statistics(HES)に紐付けて解析した。

 主要評価項目は、転倒および骨折による入院とし、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、初回の転倒および骨折の予測因子を探索した。

平均入院期間は転倒で7.9日、骨折で13.2日

 解析の結果、平均5年間の追跡期間中に計2,948例の転倒および/または骨折が認められた〔転倒のみ816例(2.26%)、骨折のみ1,117例(3.09%)、併発1,015例〕。全ての転倒は1,831例に、骨折は2,193例に発生し、1,000人・年当たりの発生率は、転倒が9.91、骨折が11.92だった。結果として、対象の約8.2%が転倒または骨折による入院を経験していた。

 また、平均入院期間は、転倒した1,831例では7.9日(範囲0~374日、計2万767日)、骨折した2,193例では13.2日(同0~374日、計4万548日)であり、これは1,000人・年の追跡期間における入院期間が転倒では18.51年、骨折が36.15年に相当し、入院期間は長期にわたっていた。

 多変量解析の結果、初回の転倒による入院には、主に高齢、鎮痛薬の服用、Health of the Nation Outcome Scale(HoNOS)で評価した認知障害および身体疾患による疾病負担の増加、失神や虚脱、糖尿病、骨粗鬆症など併存する身体疾患による一般病院への入院歴、気分(感情)障害と診断された後の救急搬送回数の増加、気分(感情)障害と診断される以前の転倒の既往といった因子が有意に関連していた。初回の骨折による入院についても、一部を除きほぼ同様の要因が関連していたが、女性、難聴といった因子も関連していた。

高齢患者には定期的な骨密度測定と転倒予防プログラムの提供を

 Ma氏らによると、今回の研究では、気分(感情)障害のサブタイプや向精神薬のカテゴリーによる層別化は行っておらず、飲酒量など生活習慣の因子や骨折のタイプに関する情報は収集していないなど幾つかの限界があるという。

 同氏らは、これらの限界を挙げた上で、「患者の自己申告ではなく臨床的に診断された気分(感情)障害患者の大規模コホートにおいて、転倒や骨折による入院の危険因子を検討した初めての研究であり、この結果は今後の研究や日常診療に重要な示唆を与えるものだ」と強調。結果を踏まえ、「気分(感情)障害患者のうち、特に高齢で慢性疾患が併存している場合は定期的に骨密度測定を行った上で、認知行動療法と運動などによる転倒・骨折予防プログラムを提供するべきだ」と提案している。

(小谷明美)