制吐薬の使用が虚血性脳卒中リスクの上昇と関連していた。フランス・Bordeaux UniversityのAnne Bénard-Laribière氏らは、同国の全国保健データシステムSystème National des Données de Santé(SNDS)のデータを用いて、ドパミン受容体拮抗作用を有する制吐薬(ADA)と虚血性脳卒中の関係をケースタイムコントロール解析法で検討した結果をBMJ2022; 376: e066192)に報告した。

脳内のドパミン活性を阻害

 ADAは抗精神病薬と同様に、脳内のドパミン活性を阻害し、片頭痛、化学療法・放射線療法・手術後に引き起こされる嘔気・嘔吐を軽減するために広く使用されている。これまで抗精神病薬は虚血性脳卒中リスクの上昇に関連することが報告されているが、ADAなどのドパミン受容体拮抗薬と虚血性脳卒中リスクの関連は明らかでない。そこでBénard-Laribière氏らは、SNDSのデータを用いてADAと虚血性脳卒中の関係を検討した。

症例群を時間系列対照群と比較

 対象はSNDSに登録された1万3,922例のうち、18歳以上で2012 ~16年に初めて虚血性脳卒中と診断され脳卒中発症前70日以内に少なくとも1回ADA(ドンペリドン、metopimazine、メトクロプラミド)の償還を受けた患者(症例群:脳血管疾患、がんの既往、観察期間前に1回以上ADAの償還を受けた者などは除外)。各患者のリスク期間(脳卒中発症前1~14日)と3つの参照期間(①脳卒中発症前29~42日、②43~56日、③57~70日)におけるADA償還回数を比較した。また脳卒中患者と年齢、性、虚血性脳卒中の危険因子をマッチングさせ、同時期にADAの償還を受けた脳卒中未発症例をランダムに選択して時間系列対照群とし、症例群のリスク期間と3つの参照期間におけるADA償還回数を比較した。解析は、抗凝固薬、抗血小板薬、血栓形成促進薬、血管収縮薬などの時間依存性交絡因子を調整して行った。

直前の服用でオッズ比が3.12

 解析対象は、症例群2,824例中2,612例(平均年齢71.9歳、男性33.9%)。うちリスク期間にADAを服用した患者は1,250例、参照期間にADAを服用した患者は1,060例だった。一方、時間系列対照群2万1,859例のうち、リスク期間にADAを服用した患者は5,128例、参照期間にADAを服用した患者は1万3,165例だった。

 条件付きロジスティック回帰分析法を用いて、症例群および時間系列対照群のケースクロスオーバー調整オッズ比(aOR)を算出し、症例群のaORを時間系列対照群のaORで割って算出したケースタイムコントロール解析によるaORの比は3.12(95%CI 2.85~3.42)で、脳卒中発症直前の14日間にADAを服用した患者では脳卒中発症リスクが有意に高かった。年齢(70歳以上/未満)、性、認知症歴、胃腸炎流行期で層別化した解析でも同様の結果だった。ケースタイムコントロール解析によるaORの比が最も大きかったのは男性(3.59、95%CI 3.06~4.20)だった。

 ADAの種類別に行ったケースタイムコントロール解析によるaORの比は、ドンペリドンで2.51(95%CI 2.18~ 2.88)、metopimazineで3.62(同3.11~ 4.23)、メトクロプラミドで3.53(同2.62 ~ 4.76)と、血液脳関門を通過する薬剤でより高かった。

 以上から、Bénard-Laribière氏らは「ADAの使用は虚血性脳卒中リスクの上昇に関連していた」と結論。「特に血液脳関門を通過するmetopimazineとメトクロプラミドでリスクが高かったことから、ADAが脳血流に影響を及ぼした可能性が考えられる」と付言した。

(大江 円)