脳震盪を起こした小児~青少年の若年者は、将来的にメンタルヘルスの問題を抱えるリスクが高まる可能性があることが、カナダ・Children's Hospital of Eastern Ontario(CHEO) Research InstituteのAndrée-Anne Ledoux氏らが実施した大規模後ろ向きマッチドコホート研究で示唆された。脳震盪を起こした若年者は、整形外科的な外傷を負った同年代の若年者と比べて、メンタルヘルスの問題で精神科を受診、入院するリスクが約1.4倍に上昇した他、自傷行為のリスクも高まることが分かったと、JAMA Netw Open2022; 5: e221235)に報告した。

米国における若年での脳震盪による受診者は64万件に

 米国やカナダでは、若年者が脳震盪などの外傷性脳損傷(TBI)により救急外来やプライマリケアを受診する件数が増えており、2008年から2013年にかけて受診件数が4倍に増えたとの報告もある。米国では2013年の受診件数は実に64万件に上り、社会問題となっている。

 脳震盪の症状は通常2~4週間続き、脳震盪を経験した小児の約30%はその後も身体面や感情面、認知機能、睡眠などに問題を抱え続けることが報告されている。しかし、脳震盪が将来の新たな精神疾患の発症や自傷行為、自殺企図に及ぼす影響は明らかでない。そこでLedoux氏らは、カナダ・オンタリオ州の救急外来、プライマリケア、精神科クリニックを受診した5~18歳の若年者を対象に約10年間追跡し、脳震盪とメンタルヘルスの問題との関連を調べる後ろ向きコホート研究を実施した。

曝露群でメンタルヘルス上の問題発生、自傷行為、精神科入院リスクが上昇

 Ledoux氏らは、カナダ全州をカバーする集団ベースの医療データベースを用いて、2010年4月~2020年3月にオンタリオ州の救急外来、プライマリケア、精神科クリニックを受診した5~18歳の若年者のデータを収集。このうち、脳震盪を1回以上起こした15万2,321例(年齢中央値13歳、男性56.7%)を曝露群とし、1:2の割合で年齢と性をマッチングさせた整形外科的な外傷を受けた若年者29万6,482例(同13歳、57.9%、非曝露群)を抽出。Cox回帰モデルを用いて解析した。初回受診から過去5年以内に脳震盪またはTBIの既往がある者、過去1年以内に精神科受診歴がある者などは除外した。追跡期間は1カ月から最長10年だった。

 主要評価項目は、不安障害や適応障害、行動障害、気分障害、摂食障害、統合失調症、物質乱用、自殺念慮、発達障害などのメンタルヘルスの問題の発生とし、副次評価項目は精神科への入院、自傷行為、自殺による死亡とした。

 両群で患者背景に大きな差は見られなかった。解析の結果、メンタルヘルスの問題の発生率(10万人・年当たり)は、非曝露群の7,960件に対し、曝露群では1万1,141件と有意にリスクが高かった〔群間差3,181件、95%CI 3,073~3,291件、調整後ハザード比(aHR)1.39、95%CI 1.37~1.40〕。また、非曝露群と比べて曝露群では自傷行為(同1.49、1.42~1.56)および精神科への入院(同1.47、1.41~1.53)リスクも高かった。一方で、自殺による死亡と脳震盪との有意な関連は認められなかった(同1.53、95%CI 0.90~2.61)。

自殺念慮と自殺行為についても評価を

 これまでの研究で、脳震盪は受傷前から抱えていたメンタルヘルスの問題を悪化させることが示唆されている。Ledoux氏らは「今回の結果から、脳震盪後には既存の問題だけでなく、新たなメンタルヘルスの問題が起こるリスクが高まる可能性がある」と結論。

 脳震盪患者の診療に当たる医師に対し、①脳震盪後のフォローアップ時には、受傷前からあるメンタルヘルスの問題だけでなく、受傷後新たな問題が起こる可能性を念頭に評価する必要がある、②精神症状を適切に診断・治療し、必要に応じて専門家に紹介する、③フォローアップ診察時には自殺念慮と自殺行為についても評価するーことを提言している。

(小谷明美)