ウクライナ侵攻を続けるロシアの残虐行為の疑いが次々に明るみに出る中、岸田政権が欧米との協調を重視し、これまで回避してきたエネルギー制裁と外交官追放に踏み切った。ただ、共に国民生活への影響が予想される苦渋の決断とも言え、夏の参院選を前に与党からは不安の声も漏れる。
 「非道な行為の責任を厳しく問わなければならない。ロシアからの石炭の輸入を禁止する」。岸田文雄首相は8日夕の記者会見でこう表明した。
 日本政府は2月下旬以降、対ロ制裁のレベルを徐々に上げてきたが、石炭などの輸入制限まで踏み込むことには一貫して消極的だった。中国などが「穴埋め」の形で購入すればダメージが相殺される上、ロシア産燃料に一定程度依存する日本経済への打撃が大きいとみていたからだ。
 首相官邸関係者は4日時点では「ロシア制裁というより『日本制裁』になる。エネルギー制裁はない」と語っていた。
 空気が変わったのはこの後だ。欧州連合(EU)がロシア産石炭の輸入禁止案を公表するなど欧米の動きが活発化。政府内には「エネルギー制裁もあるかもしれない」(関係者)との声が広がった。7日夜には石炭輸入制限を盛り込んだG7首脳声明が発表された。これを踏まえ、官邸関係者は「日本も足並みをそろえざるを得ない」と発言を一変させた。
 政府が懸念するのは新型コロナウイルス禍で疲弊した経済への影響だ。日本は発電用の一般炭の13%、製鉄など向けの原料炭の8%をロシア産に依存。政府関係者の一人は「他国産の奪い合いになる」とし、別の関係者は「移行期間がなければ日本中停電してしまう」と危機感を示す。
 エネルギー制裁の流れがさらに強まり、極東の石油・天然ガス開発事業サハリン1、2からの撤退を迫られることを懸念する声もある。首相は会見で、石炭禁輸の時期を明言せず、石油・天然ガスの禁輸については「エネルギー全体のロシア依存度低減に踏み込む」と述べるにとどめた。
 参院選を控えた与党内には不安が広がる。自民党幹部は「ウクライナのためだと説明すれば、一度は国民は理解してくれる」と予想するが、「痛みが長引けば反発が出てくる」と指摘する。公明党関係者は「対策が不十分なら政権が吹っ飛ぶ」と夏の参院選前の補正予算編成を要求した。
 エネルギー制裁と合わせ、政府は史上初の在日ロシア大使館員の国外退去も決めた。ロシアが対抗措置として同様の対応を取ることが予想されるため、政府内では「邦人保護に影響が出る」(外務省幹部)と慎重論が強かったが、先行する欧州諸国に追随せざるを得ないと判断した。
 自民党内では厳しい対応への評価の一方、「外交のパイプを細らせるのはまずい」(閣僚経験者)との声も出ている。 (C)時事通信社