米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、米国心不全学会(HFSA)は4月1日、心不全に対するガイドライン改訂版(以下、改訂GL)を合同で公表した(Circulation 2022年4月1日オンライン版)。対象には初期症状を有する心不全予備軍が含まれ、予防に重点を置いた他、症状を有する心不全例に対してはSGLT-2阻害薬を推奨するなど薬物療法の内容を変更した。

ステージCの患者を4種類に分類

 改訂GLの主なポイントは、①心不全の病期(ステージA~D)を再定義、②予防を重視、③治療選択肢を更新、④心不全専門チームによるケアコーディネーションの重視―。

 ①について、心不全のリスク例においては早期に危険因子を見いだすこと(ステージA)、心不全予備軍に位置付け、構造変化や心機能低下の徴候が現れる前に治療を行う(ステージB)など、発症予防に重点を置き病期を見直した。病期ステージはA~Dの4段階に区分。病期が進展すると重症度が上がり生存率が低下する。

 各ステージの要点は次の通り。

  • ステージA:心不全のリスクがある状態。リスクを有するものの、症状や構造的心疾患、心筋損傷を示す血液検査所見はない。高血圧糖尿病メタボリックシンドローム肥満、心臓に悪影響を及ぼすと考えられる化学療法などの薬剤への曝露、遺伝的要因などを有する例
  • ステージB:心不全予備軍。心不全の症状や徴候はないが、次のいずれかを有する。左室駆出率(LVEF)の低下、心筋肥大、心筋収縮の異常、弁膜症などの構造的心疾患、超音波測定による充満圧の上昇または、ステージAの危険因子に加えB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値の上昇または心筋トロポニン値の持続的上昇
  • ステージC:症候性心不全。現在または過去に心不全の症状を伴う構造的心疾患を有する例。息切れ、持続的な咳、浮腫(足、脚、腹部)、疲労、吐気など
  • ステージD:進行性心不全。日常生活に支障があり、コントロール不良、標準的な薬物療法を続けても入院を繰り返すような症状のある心不全

 ステージAでは、2型糖尿病と心血管疾患の両方またはどちらかを有する例および、心血管の高リスク例にはSGLT-2阻害薬を検討することが推奨された〔推奨度:クラス1(強い)、エビデンスレベル:A〕心不全予備軍であるステージBでは、症候性心不全の予防法として薬物療法を追加することがある。LVEF 40%以下例にはACE阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与を要する他、心筋梗塞や急性冠症候群の既往例にはスタチンが推奨される(推奨度:クラス1、エビデンスレベル:A)。

 またステージCでは、服薬コンプライアンスやナトリウムの摂取制限といったセルフケアを維持するために心不全専門チームによる教育・支援を行う(推奨度:クラス1、エビデンスレベル:B-Randomized;R)。ステージCの病態に関しては今回、LVEFに基づき新しい用語が導入された。

  1. LVEFが低下したHF(HFrEF):LVEF 40%以下の患者を含む
  2. LVEFが改善したHF(HFimpEF):過去にLVEFが40%以下であったものの、その後40%以上となった患者を含む
  3. 軽度のLVEF低下を伴う心不全(HFmrEF):LVEFが41~49%で、左室充満圧が上昇した患者を含む
  4. LVEFが保持された心不全(HFpEF): LVEFが50%以上で、左室充満圧が上昇した患者を含む

SGLT-2阻害薬、糖尿病の有無にかかわらず有症状のHFrEFに推奨

 ③の治療選択肢の更新については、新しいエビデンスを慎重に評価した上でSGLT-2阻害薬を含む次の薬剤が提示された。

 HFrEFに対する薬物治療として、体液貯留例では利尿薬に加えアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)が推奨された(推奨度:クラス1、エビデンスレベル:A)。ARNIが投与できない場合は、ACE阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が推奨された(推奨度:クラス1、エビデンスレベル:A)。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)およびβ遮断薬は従来通り推奨となった(推奨度:いずれもクラス1、エビデンスレベル:A)。  

 SGLT-2阻害薬は2型糖尿病の有無にかかわらず、症状を有する慢性期HFrEF患者に推奨された。

 HFmrEF患者では、まずSGLT-2阻害薬を投与し〔推奨度:クラス2a(中等度)、エビデンスレベル:B-R〕、必要に応じて利尿薬を併用するのが望ましいとされた。ARNI、ACE阻害薬、ARB、MRA、β遮断薬は、HFmrEFに対するエビデンスが確立されていないため、弱い推奨とされた(推奨度:いずれもクラス2b、エビデンスレベル:)。LVEFは経時的に変化する可能性があるため、HFmrEF患者ではLVEFの評価を繰り返し行う必要があるとしている。

 高血圧を有するHFpEF患者は、診療GLにのっとった降圧目標値を目指すべきで、心房細動(AF)の管理は、症状の改善にもつながる。HFpEF患者へのSGLT-2阻害薬投与(推奨度:クラス2a、エビデンスレベル:B-R)は、心不全による入院および心血管死亡率を低減させる可能性がある。HFpEF患者には、特にLVEFが下限値にある患者で、MRA、ARB、ARNIの投与が考慮されるべきとなった(推奨度:いずれもクラス2b、、エビデンスレベル:B-NonRandomised;NR)。

 こうした薬物療法に加え、植え込み型心臓デバイスや心臓再灌流療法、心アミロイドーシスの診断および治療、ステージDの患者の専門医への紹介、HFおよび心臓腫瘍におけるAFや心臓弁膜症の管理に関する推奨事項なども記載されている。  

 GLはこれまで、2013年に改訂された後、17年に一部のみを改訂した『フォーカスアップデート版』が公表された。今回の改訂GLの対象は、心不全を含む心血管疾患患者の治療に携わる全ての臨床医としている。

(田上玲子)