英・University College London HospitalのBen Killingley氏らは、鼻腔内への新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)曝露により新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した世界初の制御下ヒト感染モデルを用い、SARS-CoV-2感染における安全性、忍容性、感染動態を検証。若年健康人の半数が感染、症状は軽度〜中等度で肺病変は認められなかったことなどをNat Med2022年3月31日オンライン版)に報告した。

若年健康人36人を1年間追跡

 ヒト病原体を用いた研究には賛否があり、慎重な倫理的検証と規制が求められる。一方で、厳重に管理された条件下における、低リスクの若年健康人を対象としたヒト感染モデルは、SARS-CoV-2の感染動態や免疫応答の観察、ウイルス排出期間が測定できることから、ワクチンや診断法、治療法の迅速な評価に加え、治療方針の策定や感染管理対策の改善に重要な情報をもたらす可能性がある。

 今回の研究の主要評価項目は、参加者の半数以上(50〜70%)に忍容性が良好なCOVID-19を発症するウイルス量の同定で、副次評価項目は感染動態や症状の変化などの評価だった。

 対象はオンラインで研究への参加を表明した2万6,937人のうち、COVID-19の重症化因子を有さず、SARS-CoV-2ワクチン未接種かつ感染陰性などの適格基準を満たした若年健康人36人で、2021年3月6日〜2021年7月8日に登録された。

 対象は鼻腔内に10TCID50の野生型SARS-CoV-2を曝露し、ウイルス学的排出基準を満たすまで隔離され、嗅覚障害や神経機能障害などの長期症状を評価するために1年間追跡した。SARS-CoV-2曝露前にセロコンバージョンが2人に認められたため、分析から除外した。

 最初の10人は、PCR検査でSARS-CoV-2が検出された際には速やかにレムデシビル100mgを5日間静脈内投与するプロトコルだったが、その後のデータ安全性モニタリング委員会および運営委員会の検討により不要とされたことから、以降の参加者はレムデシビルを投与しないプロトコルに変更された。

約半数が発症するも、多くは軽症〜中等症の上気道症状

 SARS-CoV-2鼻腔内曝露後、53%(18人)がCOVID-19を発症した。主要評価項目(50〜70%)を満たしたことから用量増加は行われなかった。発症者と非発症者で患者背景に差はなかった。

 当初、SARS-CoV-2は咽頭から検出されたが、その後は鼻腔で増加し、ピーク時(148時間後)の中央値は8.87log10 copies/mL(95%CI 8.41〜9.53log10 copies/mL)だった。感染⼒を有するウイルスの平均検出期間は限定的で、咽頭では曝露後8.7日、鼻腔では10.2日だった。

 発症者の89%(16人)に曝露2〜4日後から軽度〜中等度の症状が認められたが、2人は無症状だった。主な症状は鼻閉、くしゃみ、咽頭炎、鼻炎などの上気道症状で、臨床的および画像評価に基づく肺病変は認められなかった。頭痛、倦怠感、筋肉痛/関節痛、発熱などの全身症状も認められた。

 嗅覚障害は発症者の83%(15人)で報告され、9人は完全な嗅覚喪失(無嗅覚症)だったが、曝露28日後までに改善した。11人が28日後にも嗅覚障害が残存していたが、180日後には5人に減少した。なお、症状とウイルス量の相関は見られなかった。

 レムデシビルを投与するプロトコルの10人中6人が発症し、同薬が投与されたが、非投与例と症状やウイルス量に差はなかった。

週に2回の迅速検査で早期に感染を診断

 SARS-CoV-2スパイク蛋白質に対する抗体(IgG抗体)および中和抗体は全ての発症者で認められた。抗体産生は中和抗体でより早期だった。

 早期感染に対する迅速検査の有用性の検討では、週2回のイムノクロマト法により、感染⼒を有するウイルスの増殖が7〜8割の段階で感染を診断できることが示された。

 以上から、Killingley氏らは「SARS-CoV-2感染過程の動態が確認され、SARS-CoV-2伝播抑制における公衆衛生上の推奨事項と戦略が示唆された」と結論。現在、ワクチン接種完了者を対象として、野生型SARS-CoV-2の増量または変異株を用いた曝露の検討が実施されているという。

(安部重範)