近年がん治療では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新しい作用機序を持つ薬剤が大きな役割を果たすようになった。しかし、こうした薬剤の適応となるがん種は限られており、希少がんを標的とした医薬品開発は進まない現状がある。がん研究会がん化学療法センター(東京都)所長の藤田直也氏らは、骨肉腫に高発現するムチン型糖蛋白質ポドプラニンの血小板凝集誘導を抑制するヒト化中和抗体AP201を創製したとClin Cancer Res(2022年4月5日オンライン版)に発表した。

ポドプラニンと結合して腫瘍細胞の血小板凝集を阻害

 がん細胞によって誘導される血小板凝集には、①凝集時に放出される種々の増殖因子ががん細胞の増殖に利用される、②がん細胞の周囲を覆うことで免疫細胞からの攻撃を防ぐ、③がん細胞の周囲を覆うことで血管内の血流に耐え、他の細胞と付着して腫瘍塊を形成し、塞栓形成を介してがん転移を促進するーなどの作用がある。藤田氏らは、こうした血小板凝集過程に注目して研究を進めてきた。

 骨肉腫は、患者数が100万人に3~5人といわれる希少がんで、思春期・若年成人(AYA)世代での発症が目立つ。同氏らは以前の研究で、がん細胞依存的な血小板凝集に関わるポドプラニン分子を同定した。その後の解析により、多くの骨肉腫細胞株でポドプラニン発現が亢進していることを確認。ポドプラニン発現の多い骨肉腫では血小板凝集誘導活性が高く、ポドプラニンのPLEG4と名付けた部位が血小板との結合に重要であり、PLEG4ドメインと結合するマウス抗ヒトポドプラニン中和抗体PG4D2の投与で、マウスに移植した骨肉腫の増殖と転移が個体レベルで抑制されると報告した。さらにポドプラニン分子は、血小板上に発現するCLEC-2分子と結合して血小板凝集を誘導すること、PG4D2は両者の結合を阻害することも明らかにした。

 そこで同氏らは今回、ポドプラニンを標的にした中和抗体をがん治療薬とするため、遺伝子組み換えによりPG4D2をヒト化抗体へと組み換える検討を進めた。

ポドプラニンへの高い結合能と腫瘍増殖抑制活性を確認

 マウス抗体をヒト化するに当たり、PG4D2の利点を最大に生かし副作用を減らすために、免疫チェックポイント阻害薬などに使われ、安全性が確認されているIgG4サブクラスを選択した。

 作製したヒト化中和抗体AP201の検討では、PG4D2と遜色ないポドプラニンとの結合能を示した(図1)。

図1. マウスPG4D2抗体とヒト化AP201抗体の模式図(左)と、ポドプラニンへの反応性(右)

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 また、ポドプラニンとCLEC-2の結合を阻害する活性も保持しており、AP201を投与することで、免疫不全マウスに移植したヒト骨肉腫細胞の腫瘍増殖が抑制された(図2)。

図2. ヒト骨肉腫細胞株を免疫不全マウスに移植した際の腫瘍体積変化

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(図1、2ともがん研究所プレスリリースより引用)

 さらに、免疫不全マウスの尾静脈からヒト骨肉腫細胞を注入すると肺転移が生じるが、AP201はこれも抑制することが確認された。AP201の認識部位を導入したノックインマウス(PDPNKI/KI)にAP201を単回投与した場合でも、血液学的・血液生化学的毒性を示すような徴候は認められず、高い安全性が示唆された。検討期間中のマウスに体重減少は見られなかった。

 ポドプラニンを標的とするがん治療薬はまだ実用化されていないが、ポドプラニンの発現亢進は骨肉腫以外にも脳腫瘍や食道がん、肺扁上皮がんなど、さまざまながん種で知られている。今回認められた効果は、骨肉腫以外のがんにも応用できる可能性があると藤田氏らは考えている。

 今後について、同氏は「製薬企業との連携でAP201の臨床試験を実施し、いち早く患者に届けられるよう開発を継続する予定だ」と述べている。

(平吉里奈)