成人期の注意・欠陥多動性障害(ADHD)患者であっても5人に2人はメンタルヘルスが良好な状態にあることが分かった。カナダ・University of TorontoのEsme Fuller-Thomson氏らは、同国の地域健康調査のデータを用い、成人期ADHD患者と非ADHD者のメンタルヘルスについて比較検討した結果を、Int J Appl Posit Psychol2022年4月12日オンライン版)に報告した。

メンタルヘルスが完全な状態を検討

 ADHDは、学業成績、社会経済的地位、自尊心の低さ、社会的関係の困難など、生涯にわたり悪影響を及ぼす。特に気分障害、不安障害、双極性障害、物質使用障害、自殺念慮・未遂の高さなど精神的な不健康状態と関連することが懸念される。これらの有害な長期転帰は包括的に研究されているが、ADHDのwell-being(幸福感)に関連する因子についてはあまり注意が払われてこなかった。ADHDの良好な転帰に関する研究は限られ、主に小児と若年者に焦点を当てているため、成人のADHD患者における幸福感に関してはさらなる研究が必要である。そこでFuller-Thomson氏らは、同国の地域健康調査のデータを用い、成人期ADHD患者と非ADHD者のメンタルヘルスを比較検討した。

 同氏らは、同国在住者を対象にオンラインまたは対面形式でメンタルヘルスの状態と関連因子について調査した2012 Canadian Community Health Survey-Mental Health(CCHS-MH)のデータを用い、ADHDとComplete Mental Health (CMH:メンタルヘルスが完全な状態)の関係を検討した。CMHは、①過去1年間に精神疾患、物質依存(うつ状態、不安障害、双極性障害、アルコール/薬物依存、自殺念慮/未遂)がない、②過去1カ月間に感情的な幸福感(幸福感/人生の満足感)がある、③過去1カ月間に社会的・精神的な充実感がある―者とした。

ADHD患者はCMH非達成リスクが87%高い

 ADHD患者480例と非ADHD者2万619人を対象に解析した結果、CMHの割合は非ADHD者で有意に高かった(42.0% vs. 73.8%、 P<0.001)。ADHD患者では男性(64.3% vs. 48.8%、P<0.001)、白人(83.5% vs. 77.5%、P=0.002)、20歳代(38.6% vs. 17.1%、P<0.001)、親の家庭内暴力(8.2% vs. 4.3%、P<0.001)、身体的虐待経験(42.8% vs. 26.1%、P<0.001)、性的虐待(15.5% vs. 5.8%、P<0.001)、世帯収入2万ドル未満(5.9% vs. 3.9%、P<0.001)の割合が有意に高かった。また、消耗性の痛み(25.6% vs. 14.3%、P<0.001)、薬物/アルコール乱用(46.3% vs. 21.7%、P<0.001)、不安障害(31.1%vs. 8.4%、P<0.001)、大うつ病性障害(31.3% vs. 11.0%、P<0.001)の既往歴の割合が有意に高かった。

 ADHD患者は非ADHD者に比べて学位取得(52.2% vs. 64.4%、P<0.001)、結婚/内縁関係(51.6%vs. 66.0%、P<0.001)、自己評価で健康状態が良い/非常に良い/優れた(72.6% vs. 86.3%、P<0.001)、日々の困難に対処する宗教/スピリチュアリティがある(54.7% vs. 72.0%、P<0.001)の割合が有意に低かった。

 ロジスティック回帰分析で、性、人種、年齢、小児期の虐待経験、教育歴、世帯収入、結婚状態、健康状態、身体活動、物質依存、不安、うつなどを調整後、ADHDとCMH非達成リスクとの関連が認められた〔調整後オッズ比(aOR)1.87、95%CI 1.52~2.31〕。

結婚、身体活動がCMHと関連

 同様に全ての因子を調整してADHD患者におけるCMH達成に関連する因子を解析したところ、小児期の身体的虐待経験なし(aOR 2.18、 95%CI 1.30~3.67)、結婚/内縁関係(同1.83、1.09~3.08)、日々の困難に対処する宗教/スピリチュアリティがある(同2.83、1.72~4.68)、低度の身体活動(同2.77、1.44~5.35)、中等度/高度の身体活動(同4.02、2.66~7.12)、うつ病の既往歴なし(同4.36、2.36~8.03)、不安障害の既往歴なし(同2.83、1.55~5.20)が抽出された。

 共著者で同大学のBradyn K.D. Ko氏は「われわれの研究結果は、ADHD患者にケアを提供する際に、併存するメンタルヘルスの問題に対処することの重要性を示唆している。うつ病や不安障害に苦しんでいるADHD患者は、CMHを達成するためのハードルに直面しており、ターゲットを絞ったケアが奏効する可能性がある。認知行動療法はADHD患者に効果を示す可能性が高い有望な介入法である」と述べている。

 CMH達成に関連する因子として結婚、身体活動習慣、日々の困難に対処する宗教/スピリチュアリティがあることが挙げられた点について、共著者で同大学のLauren Carrique氏は「ADHD患者のCMH達成をサポートするには、修正可能な因子が重要であることが明らかになった。非活動的な人に比べて適度な身体活動習慣がある人では、CMHを達成する可能性が高かった。ADHD患者のCMH達成をサポートする上で、身体活動の重要性が示された」と指摘している。

 さらに今回の研究では、女性などCMHを達成しにくい集団が同定された。共著者で同大学のAndie MacNeil氏は「女性のADHD患者がCMHを達成しにくいという知見は、ADHDの女性の特定の脆弱性を浮き彫りにした。これはADHDの女性でうつ病、不安障害、自殺傾向の発生率が高いことを示した既報と一貫しており、メンタルヘルスにおける性差を一部説明できる可能性がある」と説明した。

 Fuller-Thomson氏は「成人期ADHD患者の5人に2人はメンタルヘルスが良好な状態にあったことは驚きと同時に喜びであった。しかし、非ADHD者では74%がCMHを達成していたことを踏まえると、ADHD患者と非ADHD者のメンタルヘルスのギャップを埋めるにはまだ長い道のりがある。今回の研究結果は、このギャップを埋めるための潜在的なメカニズムを示した」と結論している。

(大江 円)