東京医科歯科大学大学院摂食嚥下リハビリテーション学分野教授の戸原玄氏らは、65歳以上の要介護高齢者90例を対象に離床時間と全身の筋肉量および摂食嚥下機能の関係を検討する横断研究を実施。その結果、離床は摂食嚥下リハビリテーション(以下、リハビリ)として有効であり、4時間以上の離床では摂食嚥下機能が保たれ、さらに6時間以上で全身の筋肉量が保たれることが示されたとGerontology2022年4月12日オンライン版)に発表した。

ADLが低下した90例が対象

 摂食嚥下機能は、口腔周囲の摂食嚥下関連筋群だけでなく、背筋など体幹の筋肉量や筋力と関連することが知られている。健常高齢者では、運動により体幹の筋肉や摂食嚥下関連筋群の機能低下を防ぐことが嚥下障害の予防と改善に役立つ。

 しかし、日常生活動作(ADL)が低下した高齢者は、摂食嚥下機能を維持するための運動を行うことが困難であり、看護師やリハビリ・介護職員の介助により身体を動かす機会も限られる。

 戸原氏らはこれまで、要介護高齢者における離床と摂食嚥下機能の関係性を報告しているが(Gerontology 2021年9月28日オンライン版)、全身の筋肉量および摂食嚥下機能維持に必要な離床時間の検討は十分でなかった。そこで同氏らは今回、ADLが低下している要介護高齢者を対象に、離床時間と全身の筋肉量および摂食嚥下機能の関係を検討する横断研究を実施した。

要介護レベルと離床時間で検討

 対象は首都圏在住で東京医科歯科大学病院で訪問診療を行ったADLが低下している要介護高齢者90例(平均年齢82.9±8.8歳、男性42例)。BMI、ADL、既往歴、併存疾患、服薬の種類、活動状況、離床時間、摂食嚥下機能のデータを収集した。

 先行研究を参考に離床時間で0~4時間群(23例)、4~6時間群(30例)、6時間以上群(37例)の3群に分け、ADLは要介護認定の基準を参考に、①介助がなければ歩行や立ち上がりができない(要介護3相当)、②介助があっても歩行や立ち上がりが困難(同4相当)、③寝たきり(同5相当)-に3分類した。体成分分析装置(InBody S10)を用いて、生体インピーダンス法により四肢骨格筋および体幹の筋肉量を測定し、四肢骨格筋指数(ASMI)と体幹筋指数(TMI)を算出。摂食嚥下機能は経口摂取状況(FOIS)により7段階〔1(経口摂取なし)~7(正常)〕で評価した。

 データの解析は、ASMI、TMIおよびFOISについて、離床時間別に群間での差、一元配置分散分析およびKruskal-Wallis検定を用いて検討した。交絡因子を調整するため、目的変数を全身の筋肉量(ASMI、TMI)とした重回帰分析を行い、四肢骨格筋と体幹の筋肉量に関連する因子を調べた。また、目的変数をFOISとした順序ロジスティック回帰分析を行い、摂食嚥下機能に関連する因子も調べた。

摂食嚥下機能と離床時間・体幹の筋肉量との関連が明らかに

 解析の結果、0~4時間群と比べ、4時間以上の2群では四肢骨格筋量と摂食嚥下機能が保たれており、6時間以上群では四肢骨格筋に加えて体幹の筋肉量が多く、常食に近い食事を取っていた。これらから、要介護高齢者の全身の筋肉量は離床により保たれ、摂食嚥下機能は離床時間および体幹の筋肉量と関連することが分かった。

 戸原氏らは「離床して車椅子などを利用し、重力に抵抗する時間を設けたことで、全身の筋肉量が維持された可能性がある。また、常食に近い食事形態では咀嚼が必要なため、覚醒と体幹機能が重要になる。既報では6時間以上の離床で覚醒状態が安定しやすく、体幹の筋肉量が保たれることが示されており、離床時間によって摂食嚥下機能に差が生じたと考えられる」と述べている。

日常生活における離床時間の確保が大切

 以上を踏まえ、戸原氏らは「ADLが低下している要介護高齢者に対する摂食嚥下リハビリとして、離床の有効性が示された。具体的な目標設定としては、離床時間が0~4時間では車椅子上で食事を取ること、4~6時間では食事や生活動作以外の余暇時間も車椅子上で過ごすことなどが挙げられる」と結論。「今後は、要介護高齢者がより効果的に体幹の機能を維持する方法の検討や、離床時間と摂食嚥下機能維持の因果関係を検証する方針だ」と展望している。

(小野寺尊允)