遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の発症リスクとなるBRCA1/2遺伝子の病的バリアントを有する女性に対し、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)の最適な時期を検討する上で有用なデータが示された。新潟大学大学院産科婦人科学分野教授の榎本隆之氏、准教授の関根正幸氏の研究グループは、日本人女性を対象にBRCA1/2遺伝子病的バリアント陽性者の卵巣がん発症年齢を検討。その結果、BRCA2 病的バリアント陽性者は発症年齢が有意に高く、40歳未満の発症例は認められていなかったと発表した。関根氏は「BRCA遺伝子の種類と患者の年齢を考慮して、個別化された遺伝カウンセリングが可能になる。特に妊娠を望む若い女性には大きな福音となるだろう」としている。結果の詳細は、J Gynecol Oncol2022; 33 :e46)に報告された。

平均発症年齢はBRCA1 陽性で51.3歳、BRCA2 陽性で58.3歳

 国内では2020年4月の診療報酬改定により、HBOCの既発症者に対するリスク低減乳房切除術・乳房再建術(RRM)、RRSOが保険収載となった。だが、BRCA1/2 病的バリアント陽性者の卵巣がん発症年齢について日本人を対象に調べた報告はなく、欧米のデータに基づきRRSOの推奨年齢に関して遺伝カウンセリングが行われているのが現状だ。全米総合がんネットワーク(NCCN)のガイドラインでは、35~40歳でRRSOが推奨されており、BRCA2 病的バリアント陽性者は卵巣がん発症が遅い傾向があるため、RRSOを40~45歳まで遅延することも考慮されるとしている。

 ただし、閉経前の早い時期に両側卵巣を摘出すると妊孕性が失われるだけでなく、女性ホルモンの欠如により心血管疾患リスクが上昇することが問題となる。現時点で、日本では欧米のデータに基づいて遺伝カウンセリングがなされているため、日本人の卵巣がん発症リスクに関する正確なデータが求められていた。

 そこで関根氏らは、BRCA1/2 病的バリアント別にBRCA 関連卵巣がんの発症リスク推定が可能になれば、RRSOの年齢を個別に決定することができると考え、日本人女性を対象にRRSOの至適年齢について検討した。

 解析対象は、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)のデータベースに2019年8月までに登録されたBRCA遺伝子検査を実施した3,517例。このうち、卵巣がん患者は468例で、BRCA1 病的バリアント陽性が185例BRCA2 病的バリアント陽性が42例BRCA 病的バリアント陰性が241例だった。

 卵巣がん診断時年齢のピークはBRCA1 陽性者で40歳代後半、BRCA2 陽性者で50歳代後半だった(図1)。

図1. 日本人BRCA遺伝子病的バリアント陽性者における卵巣がんの発症年齢分布

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 診断時の平均年齢をBRCA 病的バリアントの有無や種類別に見ると、BRCA1/2 陰性者の53.8歳と比べてBRCA1 陽性者では51.3歳と有意に低く(P=0.039)、BRCA2 陽性者では58.3歳と有意に高かった(P=0.034)。また、BRCA2 陽性者では40歳未満の卵巣がん発症を認めておらず、83.4%(42例中35例)が50歳以降で発症していた。

BRCA遺伝子病的バリアントの種類で発症年齢に差なし

 卵巣がん診断時の平均年齢をBRCA病的バリアントの種類別に見ると、BRCA1 のL63X病的バリアント陽性者で50.1歳、同Q934X陽性者で52.8歳、BRCA2 のR2318X陽性者で55.1歳、同STOP1861陽性者で61.1歳だった(図2)。卵巣がん診断時年齢に病的バリアントの種類による有意差は認められなかったが、L63XまたはR2318X病的バリアント陽性者は他のBRCA1/2 病的バリアント陽性者に比べて若年で卵巣がんを発症する傾向が見られた。

図2. BRCA 病的バリアントの種類別に見た卵巣がん発症年齢

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(図1、2とも新潟大学の発表リリースを基に編集部作成)

卵巣がん予防効果、BRCA1 陽性者は40歳までの卵巣摘出術で92%

 さらに、RRSO施行の至適タイミングを検討するために、卵巣がん診断年齢の分布からRRSOによる卵巣がん予防効果を算出した。その結果、BRCA1 病的バリアント陽性者全体の卵巣がん発症予防効果は、35歳までのRRSO施行で97%、40歳までのRRSO施行で92%だった。ただし、BRCA1 病的バリアント陽性者の中に40歳未満の卵巣がん発症例が30歳未満の2例、30~34歳の3例を含む14例で認められたことから、関根氏は「若年での卵巣がん発症に留意が必要」としている。

 これらの結果を踏まえ、同氏は「今回の研究では、日本人BRCA1/2 病的バリアント陽性者における卵巣がん発症年齢の詳細が明らかになった。中でもBRCA2 病的バリアント陽性者において40歳未満での卵巣がん発症が認められていなかったことは極めて重要であり、BRCA2 病的バリアント陽性者では日本人のデータを基にRRSOを40歳まで遅らせることが考慮できる科学的妥当性が示された」と結論。一方で、「JOHBOC乳がんグループからBRCA2 病的バリアント陽性者の34.2%が40歳未満で乳がんを発症したとの報告があり、BRCA2 病的バリアント陽性者に対するRRSOの至適タイミングについては、乳がんの予防効果も加味した検討が必要だ」としている。

 その上で、「BRCA陽性者に対する遺伝カウンセリングは、可能な限り日本人を対象にしたエビデンスに基づくべきである。今回の結果から、BRCA1/2 病的バリアントの種類と卵巣がんの診断時の年齢を考慮した個別化された遺伝カウンセリングを行うことが可能になり、ライフスタイルに合わせてRRSOの至適年齢を検討することができる。特に若年のBRCA1/2 病的バリアント陽性者にとって大きな福音となるだろう」と付言している。

(編集部)