愛媛大学学術支援センター医科学研究支援部門講師の佐伯法学氏らは、関節リウマチ(RA)患者の滑膜サンプルで発現が上昇し、多様な病態を網羅的に抑制するエピジェネティック制御分子Ubiquitin Like With PHD And Ring Finger Domains(UHRF)1を同定した。サンプルを解析したところ、 UHRF1発現レベルとRA疾患活動性に負の相関が認められ、詳細をJ Clin Invest2022年4月26日オンライン版)に報告した。

RAの病態における UHRF1 の役割は不明だった

 RAは近年、生物学的製剤およびJAK阻害薬の使用により治療成績が大きく改善した。しかし、いずれも高額なため社会的負担が大きく、薬剤の免疫抑制作用に伴う副作用があること、RA患者の約20%で効果不十分であるなどの課題がある。

 病態に関与する先天的および後天的因子のうち、後天的因子としてのエピジェネティック異常、特に滑膜細胞のDNA低メチル化が病態の増悪に関与することが示唆されている。しかしDNA低メチル化のメカニズムはほとんど分かっておらず、RAについてはエピジェネティック異常に対する有効な治療法が確立されていない。

 今回、佐伯氏らは、作製した関節炎モデルマウスの関節炎組織からmRNAを採取してDNAマイクロアレイを行い、遺伝子発現パターンを網羅的に解析した。正常組織との比較において関節炎組織で発現変動が見られた遺伝子のうち、エピジェネティクス制御に関わるUHRF1の発現上昇が最も顕著だった。なおUHRF1は、細胞分裂時におけるDNAメチル化の維持に必須の分子として知られているが、RAの病態における役割は不明だった。

 そのため、同氏らは①関節炎に伴って発現が上昇するUHRF1は、DNAメチル化を介してRAの病態を制御する、②UHRF1の制御はRAの新規治療法につながる―との仮説を立てた。

DAS28-CRPとUHRF1発現レベルに有意な負の相関関係

 免疫組織染色を行い、滑膜炎組織の滑膜線維芽細胞においてUHRF1発現を見いだした佐伯氏らは、滑膜線維芽細胞特異的UHRF1欠損(cKO)マウスを作製し、関節炎を誘導した。その結果、対照マウスと比べcKOマウスでは滑膜増生、関節破壊、アポトーシス抵抗性などの有意な悪化が認められた。

 さらに、UHRF1の分子メカニズムを明らかにする目的で、対照マウスおよびcKOマウスから滑膜線維芽細胞を採取し、RNAシークエンス、 MBD2シークエンスを実施しゲノムワイドな統合解析を行った。cKOマウス由来の滑膜線維芽細胞では、サイトカインおよびRA関連の遺伝子(CCL20TNFSF11 CCL5など)をコードする遺伝子座近傍のDNAのメチル化が減少、遺伝子発現レベルが上昇していた。

 うちCCL20は、自己免疫疾患の増悪に関わるヘルパーT細胞サブタイプ17(Th17)をリクルートする分子として知られており、今回の解析でcKOマウスの関節組織内でTh17の有意な増加が明らかになった。

 これらのことから、同氏らは「滑膜線維芽細胞に発現するUHRF1は、RA関連遺伝子の DNAメチル化を誘導し発現を抑制する保護的な役割があることが示唆された」としている。

UHRF1発現維持により関節炎病態を抑制

 さらに、前述の知見がヒトに応用できるかを検証するため、RA患者および変形性関節症(OA)患者(対照群)から採取した滑膜組織の臨床サンプルを用いて解析した。RA患者ではUHRF1発現が有意に上昇していたが患者によってばらつきがあったことから、RAの疾患活動性の指標であるC反応性蛋白(CRP)を用いた疾患活動性スコア(DAS28-CRP)とUHRF1発現レベルの相関を検討。両者に有意な負の相関関係が認められた(図1)。

図1. RA患者の滑膜炎組織におけるUHRF1発現レベル(左)およびDAS28との関連(右)

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 データベースを再解析したところ、既存の抗リウマチ薬による疾患活動性の低下とUHRF1発現レベルは負の相関関係にあり、UHRF1が高発現するほどRAの改善効果が得られること、RA患者由来滑膜線維芽細胞でのUHRF1発現はマウスと同様にCCL20発現、Th17数、アポトーシス抵抗性のいずれとも負の相関関係にあることも分かった。

 佐伯氏らは「RAの滑膜線維芽細胞に発現するUHRF1には関節炎病態に対する保護的な役割があることがヒトでも明らかとなり、なんらかの理由で UHRF1発現上昇が不十分な場合にRAの病態が悪化することが示唆された」と述べている。

患者由来の細胞へのryuvidine 添加でUHRF1発現維持・RAを抑制

 UHRF1の制御はRAの新規治療法につながるとの仮説について、既報ではSET8という蛋白質メチル化酵素の標的の1つがUHRF1で、メチル化修飾がUHRF1蛋白質の分解に作用し、SET8に対する低分子阻害薬によるUHRF1発現維持の可能性が示されている。

 佐伯氏らは、HEK293細胞を用いてSET8阻害薬によるUHRF1発現維持能を検討し、ryuvidineという阻害薬が発現維持に最も有効であることを見いだした。ryuvidineを投与した関節炎モデルマウスの滑膜線維芽細胞ではUHRF1発現が維持され、滑膜増生、アポトーシス抵抗性、血中CCL20レベルのいずれも改善した。また、オルガノイド培養したRA患者由来滑膜線維芽細胞を用いてryuvidineの有効性を検証した結果、滑膜様構造の減少とアポトーシスの誘導が認められ、UHRF1発現の維持がRAの病態を網羅的に抑制する新規治療戦略になりうることが示唆された(図2)。

図2. ryuvidine投与によるUHRF1発現

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(図1、2ともプレスリリースより)

 以上の結果を踏まえ同氏らは、UHRF1の発現を維持することでRA改善が期待される。UHRF1発現を維持することでさまざまな病態を網羅的に抑制できると考えられ、免疫抑制作用に伴う副作用が少ない薬剤開発につながる可能性があるとしている。

(田上玲子)