一部の再生医療について、安全性や有効性が十分に検証されずに自由診療として提供する事例が問題視されている。日本における再生医療とその規制に着目した研究を行っている静岡社会健康医学大学院大学講師の八田太一氏をはじめとする大阪大学感染症総合教育研究拠点大阪大学社会技術共創研究センター、京都大学iPS細胞研究所上廣倫理研究部門、京都大学高等研究員ヒト生物学高等研究拠点、国立がん研究センター研究支援センター/生命倫理部の研究グループは、日本の自由診療で提供される再生医療に対する還付金の総額を試算。リスクは再生医療を提供する医師・医療機関と患者間の私的なものにとどまらないと警鐘を鳴らした。研究の詳細はStem Cell Reports(2022年4月21日オンライン版)に発表された。

再生医療にかかる年間医療費と医療費控除額を試算

 自由診療下での治療は高額なものがあり、患者の健康被害リスクや経済的リスクが指摘されているが、これら以外に、エビデンスが不明な医療にかかる治療費の一部を医療費控除に基づく還付金制度を通じて国民が負担するという「財政的」リスクもある。実際に、医療費控除の対象となることを喧伝して自由診療を行う医療機関が散見され、このことが治療への動機付けとなっている可能性がある。 

 還付金の額は、医療費控除額(年間医療費が10万円以上の場合、医療費総額から10万円を差し引いた200万円までが対象)に所得税率を乗じたものである。2017年11月30日の「再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行規則及び臨床研究法施行規則の一部を改正する省令」の公布以降、厚生労働省の公式サイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186471.html)では再生医療に関し、実施施設名、再生医療の名称、施設で使用した説明同意文書が公開されている。

 そこで研究グループは、2017年12月〜18年2月に公開された患者への説明同意文書3,536例のうち、治療内容が把握できなかった69例を除く3,467例(歯科治療1,513例、がん治療1,175例、美容医療543例、その他99例)を対象に、治療として国に届け出された再生医療1症例当たりの平均医療費控除額(美容医療の控除額は0円)を試算した。次に、総務省などの公開情報から都道府県別の平均所得税率を算出し、両者から再生医療1症例当たりの平均的な還付金額を都道府県別に求めた。さらに厚労省が公開している都道府県別の年間患者数または投与件数を乗算し年間還付金額を算出、合計して全国の年間還付金額とした。

最大で2,400億円の還付

 厚労省公表データによると、2017年に3万7,911人・7万810件、2018年には6万7,407人・11万3,550件の再生医療を受けていた。再生医療の年間医療費総額は、患者数ベースでは2017年度は10億〜795億円(中央値71億円)、2018年度は18億〜1,414億円(同127億円)と試算された。また投与数ベースでは、それぞれ19億〜1,485億円(同133億円)、30億〜2,382億円(同213億円)と試算された。

 再生医療に関する年間還付金総額は、患者数ベースでは2017年が1億540万〜82億円(中央値8億8,160万円)、2018年が1億9,130万〜149億円(同16億円)、投与数ベースではそれぞれ2億190万〜158億円(同17億円)、3億2,570万〜2,382億円(同27億円)と推定された。ただし、再生医療を受けた全ての患者が医療費控除を申請するとは限らないため、実際に支払われた還付金額ではない点に注意が必要である。

 以上の試算を踏まえ、研究グループは「安全性や有効性が十分に検証されていない再生医療が行われることで、社会全体が負担する財政的リスクについて新たな知見を示した。すなわち、自由診療で行われる再生医療には、医師・医療機関と患者間の個人的または私的な関係(患者の健康リスクと経済的リスク)における自己責任では済まされない社会全体への財政的リスクが存在している。したがって、自由診療で提供される再生医療の安全性および有効性の担保に国が責任を持つこと、現行の再生医療等安全性確保法に問題があれば法改正も視野に入れた対応を検討することが必要である」と結論している。

編集部