九州大学大学院薬理学分野の兼久賢章氏らは、皮膚を搔破すると、皮膚と脊髄をつなぐ感覚神経でNPTX2の発現が増加、脊髄の痒み伝達神経に作用して活動を亢進させ強い痒みが生じることを発見したとNat Commun2022; 13 : 2367)に発表した。

痒みと搔破の悪循環のメカニズムは未解明

 痒みは、皮膚の異物(ダニなど)を搔破して除去する自己防衛反応と考えられ、通常このような痒みは数回かくと治まる。しかし、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などに伴う慢性的な強い痒みに対し、過剰な搔破を繰り返すと、皮膚の炎症が悪化して痒みが増強され、さらに搔破する悪循環に陥ってしまう。

 これは「痒みと搔破の悪循環」と呼ばれ、痒みを慢性化させる大きな原因の1つと考えられている。しかしなぜ慢性化するのか、痒みと掻破の悪循環はどのような仕組みで形成されるのか、それらのメカニズムは解明されていなかった。

NPTX2がトリガーに

 既報の基礎研究により、痒みの信号を皮膚から脳まで伝える神経路があることが示されている。そこで兼久氏らは、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎モデルマウスを用いた検討により、①皮膚を繰り返し搔破することで皮膚からの痒み信号を脳へ送る脊髄神経(痒み伝達神経)の活動が亢進する、②爪を切り皮膚への引っかき刺激を抑えたマウスでは活動亢進が生じない―ことを見いだした。

 さらに同氏らは、痒み伝達神経の活動の亢進は、搔破行動の繰り返しにより皮膚と脊髄をつなぐ感覚神経で発現が増加する蛋白質NPTX2が原因であることを発見した。

 NPTX2は、神経細胞の活動が亢進すると産生される蛋白質で、神経細胞から放出されると隣接する神経細胞の細胞膜にあるグルタミン酸受容体をクラスター化し、神経活動を高める働きを有する。NPTX2は感覚神経を介して脊髄に運ばれ、痒み伝達神経に到達すると考えられる。

 NPTX2を欠損させたマウスでは、脊髄の痒み信号伝達神経の活動亢進および痒みがともに抑制された。これらの結果から、痒みを感じて皮膚を何回も搔破することにより感覚神経でNPTX2の発現が増加し、脊髄へ運ばれて痒み伝達神経に作用すると神経活動が亢進、さらに痒みを生むという痒みと搔破の悪循環のメカニズムが明らかになった()。

図. 痒みと搔破の悪循環のイメージ

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(九州大学プレスリリースより引用)

 兼久氏らは「NPTX2を標的とし発現増加を抑制する、または作用を阻害するような化合物が見つかれば、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などに伴う慢性的な痒みに有効な治療薬の開発につながる」と期待を寄せている。

(小野寺尊允)