総務省消防庁の報告によると、全国の救急隊出動件数は年々増加傾向にあり、救急隊の現場到着および傷病者の病院収容までの時間延長が大きな課題となっている。そこで、搬送先の選定や受け入れ要請などのプロセスをICTの活用により効率化・最適化するクラウド上の救急医療情報サービス「Smart119」の開発が進められている。開発元のSmart119社(代表取締役CEO/千葉大学救急集中治療医学教授・中田孝明氏)が昨日(5月10日)開催した記者説明会では、山梨県内の消防本部および医療機関と連携し実施した実証実験において、受け入れ要請から搬送先確定までに要した時間を5~7割短縮できたことを報告。同社は今後さらなる実証実験を重ねてSmart119をアップデートした上で、救急現場での運用開始を目指すという。

傷病者の受入要請を複数の医療機関へ一括送信

 現状の救急医療では、現場到着した救急隊が傷病者の搬送先を選定後、電話で傷病者情報を伝達しながら受け入れ交渉を行う。これが断られれば次の施設を選定し、再び傷病者情報の伝達と受け入れ交渉を繰り返す。いわばアナログ・リレー方式であり、受け入れ交渉が難航すれば現場滞在時間が延長し、傷病者がたらい回しにされる事態も起こりうる。

 Smart119では、ICTを活用する「リアルタイム共有方式」により市民(通報者)、消防指令センター、救急隊、医療機関をつなぎ、さまざまな情報の共有ができる()。

図. Smart119の概念図

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(Smart119社のプレスリリースより)

 119番通報の内容は消防指令センターのオペレーターの確認音声から音声認識により自動入力され、現場での傷病者情報の更新にも音声入力を活用。人体イラストへの受傷部位などの書き込みや撮影した写真の共有も簡便にできる。さらに人工知能(AI)を活用した予測診断情報なども参照しながら、傷病者の受け入れ要請を複数の医療機関に一括送信し、各施設から受け入れ可能かどうかのフィードバックを得る。口頭による説明では情報が誤って伝わる可能性があるが、「リアルタイム共有方式」ではデジタル情報をやり取りするので正確な伝達が可能である。搬送先の選定から決定に至るプロセスの効率化・最適化が図れるだけでなく、入力した情報は従来帰署後に作成していた活動報告書に自動で反映されるため、さらなる業務負担の軽減も期待できるという。

バイタルも数字で送られ「口頭で聞く必要がなく正確」

 Smart119社が山梨県の消防本部と行った仮想事案によるSmart119の実証実験では、電話連絡に比べ受け入れ要請から搬送先決定までの所要時間が東山梨消防本部で4分7秒(57%)、峡北消防本部で7分6秒(74%)の短縮が見込まれた(各消防本部の医療機関への平均照会回数1.51回、1.64回を踏まえ算出)。

 医療機関の利便性については東山梨消防本部、山梨大学病院、山梨県立中央病院、山梨厚生病院と連携した実証実験で検討。Smart119を活用し、3件の仮想事案で必要に応じて交通事故の写真や患部の写真を医療機関と共有することとした。傷病者情報入力から搬送先決定までの平均所要時間は4分4秒、医療機関での受け入れ要請連絡から受け入れ判断までの平均所要時間は1分26秒だった。

 実証実験終了後に救急隊および各医療機関に実施したアンケートでは、「救急隊の負担軽減や住民サービス向上のためにも、このようなシステムは有効である」(消防本部)、「バイタルが数字で送られてくるので、口頭で聞く必要がなく正確」(医療機関)などの回答が寄せられ、評価はおおむね良好だったという。

札幌市消防局で実際の救急事案での実証実験を予定

 Smart119は千葉大学との共同研究で開発され、日本医療研究開発機構(AMED)が推進する研究開発課題などにも採択されている。2020年7月に千葉市消防局で運用を開始し、今年(2022年)9月には札幌市消防局で実際の救急事案を対象に有効性を検討する半年間の実証実験を実施予定である。さらに複数の市町村や県レベルでも実証実験を予定しており、既に正式導入を検討している自治体もあるという。

 中田氏は「救急医療においては、目の前の患者を救命するだけでなく、救命率や救急活動の質向上に向けた救急医療現場の効率化および最適化が全国的な課題である。その解決には、救急医療システムの拡充・改善が不可欠だ」と指摘した。

 同氏は、今後予定している実証実験の結果などを踏まえながらSmart119のアップデートを重ね、「救急現場での早期の運用開始を目指したい」と意欲を示した。

(渕本 稔)