英・University of OxfordのAshley K.Clift氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)またはそれ以外の重症急性呼吸器感染症(SARI)による入院後に生存退院した成人5万例弱と一般人口約830万人を対象とするコホート研究で、退院後の精神神経疾患の発症リスクを検討。その結果、一般人口に比べてCOVID-19だけでなくSARIの生存退院例では、不安障害、認知症、精神病性障害、双極性障害のリスクが一般人口に比べて有意に高かったとJAMA Psychiatry2022年5月11日オンライン版)に発表した。

発症・薬剤処方リスクが一般人口の2~4倍超

 解析対象は、英国のQResearch一般診療データベースに2020年1月24日(英国で最初のCOVID-19患者登録日)~21年7月7日に登録された18歳以上の成人838万例(女性418万例、男性420万例、平均年齢49.18歳)。内訳は、COVID-19以外のSARIによる入院後に生存退院した患者(SARI群)が1万6,679例、COVID-19による入院後に生存退院した患者(COVID-19群)が3万2,525例で、残りの833万986例を一般人口の対照群とした。

 主要評価項目は、退院後(一般人口は2020年1月24日以降)12カ月間における①精神神経疾患(不安障害、認知症、精神病性障害、抑うつ性障害、双極性障害)の新規発症、②精神神経疾患治療薬(抗うつ薬、睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬)の初回処方ーとした。

 解析の結果、一般人口と比べてSARI群およびCOVID-19群では全ての精神神経疾患の新規発症リスクが有意に高かった。一般人口に対するSARI群、COVID-19群における疾患発症の調整後ハザード比(aHR)は、不安障害でそれぞれ1.86(95%CI 1.56~2.21)、2.36(同2.03~2.74)、認知症で2.55(同2.17~3.00)、2.63(同2.21~3.14)、精神病性障害で3.63(1.88~7.00)、3.05(1.58~5.90)、うつ病で3.46(2.21~5.40)、1.95(1.05~3.65)、双極性障害で2.26(1.25~4.08)、2.26(1.25~4.07)だった。

 同様に、一般人口と比べてSARI群とCOVID-19群では全ての精神神経疾患治療薬の処方リスクが一般人口と比べて有意に高く、aHRは抗うつ薬でそれぞれ2.55(95%CI 2.24~2.90)、3.24(同2.91~3.61)、睡眠薬・抗不安薬で3.10(同2.74~3.51)、3.79(同3.38~4.25)、抗精神病薬で4.64(同4.20~5.12)、4.78(同4.28~5.33)だった。

SARI群とCOVID-19群に有意差なし

 一方、SARI群とCOVID-19群で直接比較したところ、抗精神病薬の処方リスクはCOVID-19群で20%有意に低かった(aHR 0.80、95%CI 0.69~0.92)。ただし、他の疾患発症〔不安障害(同1.00、0.79~1.27)、認知症(同0.88、0.69~1.13)、うつ病(同0.63、0.25~1.58)、双極性障害(同0.74、0.32~1.69)〕および薬剤処方〔抗うつ薬(同1.07、0.90~1.27)、睡眠薬・抗不安薬(同0.95、0.80~1.24)〕のリスクに有意差はなかった。

 Clift氏らは「SARI患者における精神神経疾患の発症リスクの上昇には、呼吸器感染症の原因微生物ではなく重症度が関連する可能性が示唆された」と指摘。その上で「COVID-19入院患者とCOVID-19以外のSARI入院患者で、退院後の精神神経疾患リスクに差がないことが示された。今回の知見は、SARI患者の退院後の支援に有用な可能性がある」と結論している。

(太田敦子)