奈良県立医科大学県民健康増進支援センター特任准教授の冨岡公子氏らは、都道府県別に人口当たりの保健師数と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規罹患率について同時点の統計データに基づき横断面分析。人口当たりの保健師数が多い都道府県は、COVID-19の新規罹患率が低かったと、Environ Health Prev Med(2022; 27: 18)に発表した。
健康維持には欠かせない保健師の存在
これまでの研究において、人口当たりの保健師数が多いと健康診断やがん検診の受診率が有意に高いことが報告されている。また長野県は男女とも長寿1位の県で、その要因の1つとして保健師がさまざまな健康問題に対する予防意識を地域に浸透させたことが挙げられる。
保健師はCOVID-19対策においても欠かせない。最前線で重要な役割を果たし、保健所での新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者や濃厚接触者への対応、職場や市町村でのワクチン接種など活動は多岐にわたる。しかし、このような保健師の活動がCOVID-19罹患率とどのように関連しているかの研究は限られている。そこで冨岡氏らは、オープンデータを用いて都道府県別に人口当たりの保健師数とCOVID-19の罹患率との関連を生態学的研究で検討。COVID-19の転帰に関連すると指摘されている地域の特性や、変異株の影響を調整し分析した。
保健師数を五分位で比較、罹患率比は第1五分位群で有意に高い
今回の検討では、都道府県・変異株別人口10万人当たりのCOVID-19累積新規罹患者数を結果変数、都道府県別人口10万人当たりの保健師数を説明変数とし、両者の横断的関連を分析した。SARS-CoV-2の変異株は感染時期によって特定し、2020年1月16日~第三波(2021年2月末)までは野生株、第四波(2021年3~5月末)まではアルファ株、第五波(2021年6~9月末)まではデルタ株とし、変異株別の層別化分析も行った。
解析では、都道府県別人口当たりの保健師数で五分位に分け、地域特性を調整し、保健師数が最も多い第5五分位群に対する変異株別COVID-19罹患率比を算出した。
高齢者割合と人口密度はCOVID-19の罹患率に影響を及ぼす重要な地域特性だが、高齢者割合と人口密度は相関が高いため、同時にモデルに投入することができない。そこで、地域特性として高齢者割合、第三次産業労働者の割合、住宅の1人当たりの居住室の広さ、年平均気温を調整したモデル、対数変換した人口密度、第三次産業労働者の割合、住宅の1人当たり居住室の広さ、年平均気温を調整したモデルを構築した。
分析の結果、全感染者を含めた全ての変異株において、第5五分位群に対する罹患率比は、いずれも第4五分位群以下で高かった。とりわけ第1五分位群では全感染者および変異株で有意に高く(図1、2)、人口当たりの保健師数が少ない都道府県ではCOVID-19の罹患率が高まることが明らかとなった。
図1. 高齢者割合などを調整したモデルにおけるCOVID-19罹患率と人口当たりの保健師数との関連
図2. 人口密度などを調整したモデルにおけるCOVID-19罹患率と人口当たりの保健師数との関連
(図1、2とも奈良県立医科大学プレスリリース)
変異株別には、野生株およびデルタ株において、人口当たりの保健師数が少なくなるほど COVID-19の罹患率が高くなる量反応関係が認められた。この結果は、社会経済的要因(モデル1)、医療資源(モデル2)、健康行動(モデル3)を調整した各モデルでも同様で、モデル1とモデル2では、アルファ株を含めた全ての変異株において有意な量反応関係が認められた。
オミクロン株については未知数
冨岡氏は、COVID-19の罹患率と保健師数との関連のメカニズムとして、①保健所に勤務する保健師の活動がCOVID-19罹患率を低下させた、②先行研究によると、保健師活動の活発な地域では平時から健康に関心を持つ人が多い-ことを挙げた。
その上で、同氏は「今回の結果は、保健師の数を増やすことが日本におけるCOVID-19の流行拡大の抑制に有用な可能性を示唆している」と指摘。一方、「横断研究のために因果関係は示せず、また感染者数が保健所機能を上回ったオミクロン株の状況を反映していないことなどには注意が必要」と述べている。
(編集部)