認定NPO法人乳がん患者友の会きらら代表の中川圭氏と特定非営利活動法人JASMIN代表の中浜力氏らは、国内の乳がん患者369例を対象に治療中の皮膚関連副作用に関する意識調査を実施。乳がん治療から10年時点でも副作用が軽減しなかったとの結果をProg Med(2022; 42:309-317)に発表した。
頻発する皮膚関連副作用の長期的影響
がん治療中に頻発する副作用の1つに皮膚関連症状がある。特に分子標的薬などの薬物療法による皮膚関連副作用の報告は多数あり、放射線療法においても95%の患者でなんらかの皮膚損傷が起こることが報告されている。皮膚関連副作用の大半は生命を脅かすものではないものの、完全に避けることは困難で患者の治療計画やQOLに大きな影響を及ぼす場合がある。
こうした状況は乳がん治療においても同様で、皮膚関連症状の発現および影響についての報告が散見される。しかし薬物療法や放射線療法、手術後などの急性期における皮膚関連副作用の影響についての検討が行われる一方で、治療が一段落し、日常生活や社会生活を送る乳がんサバイバーにおける長期の皮膚関連症状および負担については十分に調査されていなかった。
そこで中川氏らは、軽視されがちな乳がんサバイバーにおける皮膚関連症状の長期的な負担を明らかにすべく、より実態の把握に適した調査票を作成、皮膚関連症状による困りごと、負担感の経年的な変化に関するアンケートを実施した。
調査票の項目は、乳がんサバイバーの皮膚関連症状に対する治療経験がある皮膚科専門医3人が策定した。内容は、①現在の主要な皮膚関連症状の有無およびNumerical Rating Scale(NRS:0~11点)による困っている程度の評価、②症状の軽減が期待できる治療(一般薬、医薬部外品などを含む)に対する1カ月当たりの自己負担での支出意欲、③皮膚関連の国際的なQOL評価指標(Skindex-29)を用いた直近1週間における皮膚関連症状に起因する現状のQOL評価―から成る。
27~91歳の幅広い年齢分布
対象は、国内の乳がん患者団体9団体※の会員、または団体への協力が得られる20歳以上の女性乳がんサバイバーで、①調査の趣旨、②調査対象、③設問の概要、④調査結果の公表指針、⑤期待される成果―などを提示し同意が得られた人とした。また一部の設問への回答のみを拒否した場合は有効回答に含めた。調査期間は2020年3月20日~6月15日で、調査は郵送またはインターネットを介して行った。
有効回答は全例、平均年齢は60.3歳(27~91歳)、50歳代が33.9%と最多で、次いで60歳代が24.7%、70歳代が22.8%、40歳代が13.6%の順だった。
乳がん診断後の経過期間は平均8年10カ月で最短が5カ月、最長が35年0カ月と広く分布しており、全体の約7割は10年以内だった(表)。
表. 対象の背景
63.1%が「副作用あり」と回答
皮膚関連症状について、乳房およびその周辺の症状(8項目)、手術の傷跡の違和感(1項目)、爪関連(3項目)、毛髪関連(1項目)、治療による副作用が出現した部位の発疹(1項目)を尋ねた。
乳房およびその周辺における乳がん治療に伴う皮膚関連症状の有無については、233例(63.1%)が「ある」と回答した。50%を超えたものは、カサカサ・乾燥(70.8%)、色素沈着(50.6%)、痺れ・感覚異常(50.6%)で、困っている程度はNRSスコアが高い順に、むくみ(4.78)、痺れ・感覚異常(4.65)、突っ張る・硬い(4.00)だった。
副作用の発現部位に発疹があると回答したのは13.6%(NRSスコア4.32)、術後創傷に引きつり、痛み、痒みなどの感覚異常があるとの回答は67.8%(同3.78)であった。
脱毛や髪質の変化は58.3%が「ある」とし、NRSスコアは5.41と最も高かった。手足の爪では、3割前後が変色や変形、爪が折れやすいなどの症状の持続を自覚しており、NRSスコアが高い順に、爪が折れやすい(4.53)、爪の変形(4.26)、爪の変色(3.98)だった。
治療内容別に比較
治療内容別に見ると、乳房温存術例と乳房切除術例の比較で有意に頻度が高かった症状は、乳房温存術例では、カサカサ・乾燥(P=0.004)、痒み(P=0.034)、汗が出ない(P=0.001)、乳房切除術例では、痺れ・感覚異常(P=0.034)だった。放射線治療なし例に対し、あり例では、カサカサ・乾燥(P=0.000)、色素沈着(P=0.000)、汗が出ない(P=0.000)。化学療法非施行例に比べ施行例では、むくみ(P=0.012)、爪の変色(P=0.000)、爪の変形(P=0.000)、爪が折れやすい(P=0.000)、脱毛や髪質の変化(P=0.000)が有意に頻度が高かった(全てFisher's exact test)。
なお、ホルモン療法の有無で症状の頻度に有意差は認めなかった。分子標的薬については70例(19.0%)と母数が少なかったことから検討に含めなかった。
1カ月当たりの自己負担額、3,000円を中心に5,000円までが大半
自覚する皮膚関連症状の軽減が期待できる治療(医療機関の受診、処方薬、一般薬、医薬部外品などを含む)、スキンケア用品などに対する、1カ月の支出意欲で最も多かったのは「3,000円まで」の142例(38.5%)で、次いで「5,000円まで」の69例(18.7%)と「1,000円まで」の65例(17.6%)が同程度だった。28.2%が3,000円以上の支出意欲を示したことから、皮膚関連症状の改善を強く希望する乳がん患者は少なくない実状がうかがわれた。
治療内容別に見ると、化学療法非施行例に比べ施行例では有意に高額を支出する意欲を示した(P=0.001)。ホルモン療法、手術、放射線治療に関しては、有無または治療内容で有意差を認めなかった。
感情、症状、機能の3つの解釈度の平均スコアを算出
Skindex-29によるQOL総合評価の平均スコアは11.5±22.2(標準偏差)で、「感情」、「症状」、「機能」の平均は、それぞれ11.0±21.3、18.4±27.8、7.9±18.0だった。
「感情」は、皮膚の状態が感情面に及ぼす影響を自己評価する10項目のうちスコアが高かったのは、「皮膚の状態のせいで、憂うつになった」(15.7)、「うっとうしく感じた」(15.7)、「いらいらした」(13.4)。「症状」では皮膚の症状に対する認識を自己評価する7項目があり、スコアが高い順に、「私は敏感肌だ」(33.0)、「皮膚に痒みを感じた」(27.1)、「皮膚がぴりぴり、ちくちくした」(22.7)、「皮膚に痛みを感じた」(20.3)などであった。「機能」については、皮膚の状態が日々の生活に及ぼす影響を自己評価する12項目のうち、スコアが高い順に「皮膚の状態のせいで、疲れてしまった」(11.8)、「仕事や趣味をするのに支障があった」(11.7)、「よく眠れなかった」(10.1)だった。
治療内容別にQOL評価を比較したところ、化学療法非施行例に対し、施行例では「感情」(P=0.026)、「症状」(P=0.034)のスコアが有意に高かった。ホルモン療法、手術、放射線治療に関しては、スコアに有意差を認めなかった。
乳がん診断後の経過期間と症状自覚の相関
Skindex-29の総合評価および「感情」、「症状」、「機能」3つの下位尺度に関して、診断後経過期間(2年未満、2年以上5年未満、5年以上10年未満、10年以上)による比較において、有意差は認められなかった(図)。
図. 経過年数によるSkindex-29の比較
(表、図ともProg Med 2022; 42:309-317)
以上を踏まえ、中川氏らは「調査の結果、乳がんサバイバーの多くは長期にわたり皮膚関連症状に悩み、負担を感じている実状が示された。程度に関しては個人差があり、長期経過例では医療関係者への相談をためらっている可能性が示唆された。そのため、患者会の支援者や医療関係者も皮膚関連症状は乳がんサバイバーに共通する困りごとであるとの認識を高め、悩みの改善の一助になることを期待する」と述べている。
(小野寺尊允)
※とかち女性がん患者の集い プレシャス、アイビー千葉、NPO法人ねむの樹、NPO法人ブーゲンビリア、三重県乳腺患者友の会「すずらんの会」、特定非営利活動法人ピンクリボン大阪、福山アンダンテ、乳がん患者会 なごみの会、認定NPO法人 乳がん患者友の会きらら