慢性炎症性皮膚疾患である乾癬の発症には、免疫細胞の過剰活性化が関与することが知られている。京都大学大学院皮膚科の足立晃正氏(現・東京都立墨東病院)らの研究グループは、乾癬モデルマウスを用いた検討から、女性ホルモンの一種であるエストラジオールが、好中球やマクロファージなどの免疫細胞の活性化を制御し、乾癬抑制作用を発揮することを発見したとJ Allergy Clin Immunol2022年5月16日オンライン版)に発表した。

卵巣を除去した乾癬マウスでは皮膚炎症が増悪

 乾癬は、世界で人口の約1%が罹患していると推定され、国内の推定患者数は約53万人とされる(臨床医薬 2014; 30: 279-285)。これまで、男性に比べて女性の罹患率および重症度が低いことが報告されているが(J Dermatol 2011; 38: 1125-1129)、詳細なメカニズムは不明だった。

 足立氏らは、女性ホルモンに着目し、卵巣を除去し女性ホルモン(内因性卵巣ホルモン)が産生できない状態にした雌マウスに薬物で炎症を誘導、乾癬モデルマウスを作製。女性ホルモンと乾癬の関連を検討した。

 その結果、乾癬マウスでは健常マウスに比べ、インターロイキン(IL)-17AおよびIL-1βの産生が増加し皮膚炎症が著しく増悪した。一方、乾癬マウスにエストラジオールを補充すると、皮膚炎症の増悪は認められなかった。このことから、エストラジオールは乾癬炎症に対し、抑制作用を発揮すると考えられた()。

図. エストラジオールによる抗皮膚炎症作用のイメージ

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(京都大学プレスリリースより引用)

 乾癬の発症には、IL-23とヘルパーT細胞(Th)17の関与が知られている。IL-23により活性化されたTh17は炎症性サイトカイン(IL-17、TNFαなど)を産生、免疫細胞の過剰活性化を介し皮膚炎を引き起こす。同氏らはエストラジオールが免疫細胞の活性化を制御することで、乾癬炎症を抑制していると仮説を立て、エストラジオールの作用標的細胞を探索した。

 その結果、作用標的細胞として好中球とマクロファージを同定。①好中球とマクロファージにエストラジオールを作用させると、細胞の活性化が抑制された、②遺伝子改変により好中球とマクロファージにエストラジオールが作用できない状態にしたマウスでは、皮膚炎症抑制効果は認められなかった-ことから、エストラジオールは好中球とマクロファージの機能を制御することで、乾癬炎症の内在性抑制因子として機能していることが明らかになった。

女性ホルモンが皮膚の健康に寄与

 足立氏らは「エストラジオールが免疫細胞の活性化を抑え、乾癬抑制作用を発揮していることが示された。今回の成果は、女性ホルモンの新たな生理機能の理解および乾癬における新たな治療選択や創薬標的を考える上で、重要な意義を持つ」と結論。「今後はヒトでも同様の作用が認められるかを確認する必要がある」と付言している。

(小野寺尊允)