南アフリカ・TASK HQのCaryn M. Upton氏らは、同国の医療従事者約1,000例を対象に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するBCGワクチン再接種の有効性と安全性を評価する第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験を実施。その結果、BCGワクチンは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染や入院に対する保護効果を示さなかったとeClinicalMedicine(2022;48: 101414)に発表した(関連記事「BCGがCOVID-19に有効」に根拠はあるか)。
BCG再接種後1年間のCOVID-19入院率と罹患率を評価
結核が蔓延している南アフリカ(2018年:人口10万人対737)では、BCGワクチンが1950年代に導入され、1973年以降は全ての新生児が接種を受けている。BCGワクチンは、エピジェネティックおよび機能性リプログラミングを誘導することで自然免疫系を訓練し、気道感染症(RTI)からの非特異的保護をもたらすとの仮説が立てられている。今回の試験では、医療従事者を対象に、BCGワクチン再接種がCOVID-19の罹患率と死亡率に及ぼす影響について検討した。
2020年5~10月に南アフリカ・西ケープ州の3施設で登録された成人の医療従事者1,000例を、BCGワクチン群(デンマーク1331株0.1mL)または対照群(0.9%生理食塩水0.1mL)に1:1でランダムに割り付け、皮内投与後52週間追跡した。活動性感染症罹患例、実験的なCOVID-19治療例、BCGワクチンに対する禁忌例(妊娠や授乳中、既知の過敏症、免疫不全など)は除外した。
主要評価項目は、COVID-19による入院率。副次評価項目は、COVID-19(PCRまたは抗原検査で確認)、非特異的RTIなどとした。また、health status(HS)スコア*を用いて、COVID-19を含むRTI重症度の低減効果について事後解析を行った。
入院率、COVID-19罹患率に影響なし
医療従事者1,000例の主な背景は、年齢中央値39歳、女性70.4%、看護師16.5%、医師14.4%。併存症は、高血圧17.4%、潜伏性結核(QuantiFERONゴールドプラス陽性)48.5%、SARS-CoV-2抗体陽性率が15.3%。追跡期間中に67.9%が主にヤンセンファーマ製のSARS-CoV-2ワクチン接種を受けた。
COVID-19による入院は15例(1.5%)で発生し、プラセボ群の5例(33.3%)に対してBCGワクチン群は10例(66.7%)と有意差がなかった〔ハザード比(HR)2.0、95%CI 0.69~5.9、P=0.20〕。初回SARS-CoV-2への感染は190例(19%)で確認され、プラセボ群の92例(48.4%)に対しBCGワクチン群は98例(51.6%)でHRは 1.08(同 0.82~1.42、P=0.63)、イベント発生までの期間(Kaplan-Meier法)に両群間で差はなかった。同様にBCGワクチンはRTIに有意な影響を及ぼさなかった(HR 1.07、同0.91~1.28、P=0.40)。
BCGワクチンでRTI症状悪化の可能性、死亡は増加せず
COVID-19を含むRTIイベントは958件(BCGワクチン群498件とプラセボ群460件、症例重複の可能性あり)発生し、97%が中等度の症状(HS 2)を超えなかった。マルコフ連鎖モデルによる事後解析では、両群でRTI症状発現から悪化よりも回復へとHSが低下しやすいと予測された。しかし、BCGワクチン群ではプラセボ群に比べてHS 0→3以上に悪化する確率が2.2倍(P=0.02)、HS 2→3以上に悪化する確率が2.9倍高かった(P=0.02)。
死亡はプラセボ群でのみ4例(0.4%)確認され、このうちCOVID-19で2例(0.2%)、腸穿孔と脳血管障害でそれぞれ1例(0.1%)が死亡した。
COVID-19予防にBCGワクチン勧めない
以上の結果から、Upton氏らは「BCGワクチンの再接種を行っても、南アフリカの医療従事者においてSARS-CoV-2感染、COVID-19の重症化、入院およびRTIへの抑制効果は認められなかった。現時点では、臨床試験以外ではCOVID-19の予防または症状軽減にBCGワクチンを使用しないことを勧める」と結論している。
非結核性感染に対するBCGワクチンの非特異的保護効果に関する研究は、過去20年間でエビデンスが蓄積されている。同氏は「われわれの研究結果が既存文献と対照的だった理由として、潜伏性結核感染、免疫機能の年齢による違いおよび病原体特異性などの集団的および免疫学的要因が考えられる。BCGワクチン接種による非特異的免疫効果は、集団、年齢または病原体特異的でありうることが示唆される」と考察している。
※HSスコア:世界保健機関(WHO)が作成したOrdinal Scale for Clinical Improvementで用いられる重症度の尺度で0~7点で評価(無症状0点、軽度→中等度→重度の症状:1→2→3点、入院4点以上、酸素投与5点、人工呼吸器6点、死亡7点)。
(坂田真子)