エビデンスレベルの高い臨床研究であるランダム化比較試験(RCT)。対象の登録に始まり、解析に十分なデータの収集、そして最終的に論文化に至る。では、RCTとして承認を得ながらも数々のハードルを超えられず、いわば「未完」に終わった試験はどれくらいの割合を占めるのかー。スイス・University of BaselのBenjamin Speich氏らはRCTの未完率を調査し、結果をPLoS Med(2022; 19: e1003980)に報告した。
2012〜22年に承認された326件の状況を解析
University of Baselの研究グループは既に、2000〜03年に承認されたRCT 1,017件の25%が中止となり、44%は論文化されていないことを報告している(JAMA 2014; 311: 1045-1051)。そこでSpeich氏らは、10年後の現状について試験完遂率や論文化率などを検証する経時メタデータ解析を実施した。今回のメタ解析はRCTのプロトコル完遂を評価する国際共同研究ASPIRE試験(Adherence to SPIrit REcommendations)の関連プロジェクトとして行われた。
対象は、スイス、英国、ドイツ、カナダの倫理委員会が2012年に承認したRCTから326件を抽出。登録状況は世界保健機関(WHO)、米国立医学図書館臨床試験データベース(ClinicalTrials.gov)、欧州連合臨床試験レジストリ(EUCTR)などを、論文化の有無についてはPubMed、Google Scholar、Scopusを2022年2月まで検索した。パイロット試験や第Ⅰ相試験などは除外。試験プロトコルの登録や試験中止の状況、論文化の割合を算出した。
未完率は21%、試験プロトコルへの報告の質が低いほど論文未発表に
解析の結果、試験プロトコルの登録が未完了だったRCTは326件中19件(6%)、試験中止は98件(30%)で、中止の98件中36件(37%)は登録者不足が原因だった。追跡期間10年における論文未発表の割合は326件中70件(21%)と5件に1件に上り、70件のうち15件(21%)は登録が未完了だった。また、試験登録サイトへの結果報告の状況を見たところ、研究者主導試験は147件中23件(16%)しか登録されていなかったのに対し、企業出資試験は179件中150件(84%)と登録率が高かった。
さらに、論文未発表と関連する因子を求めたところ、試験プロトコルの報告の質が低いこととの有意な関連が示された(オッズ比0.71、95%CI 0.55〜0.92、P=0.009)。なお、試験中止と関連する因子は認められなかった。
以上から、Speich氏らは「前回の解析から10年を経た現在もRCTの中止率は変わっておらず(前回24.9%)、論文未発表の割合は少なくなった(同44.2%)とはいえ21%と高かった」と結論。「臨床試験の効率性と透明性を向上する取り組みの強化が望まれる」と付言している。
(松浦庸夫)