世界保健機関(WHO)は5月21日、天然痘に症状が似ているサル痘の感染例が欧米やオーストラリアなど12カ国で確認されたと発表。報告されたのは92件で、疑い例が28件としている。現時点でサル痘に関連した死亡例の報告はないが、今後感染が拡大する可能性があるとして警戒感を示している。感染拡大抑制を目的に、医療従事者や清掃員などサル痘の危険にさらされる可能性がある人たちを保護するためのガイダンスの提供にも取り組む他、近日中に加盟国に勧告を発出する方針だ。現時点の基礎知識をまとめた。

天然痘に症状が類似、日本で発生例なし

 現在、サル痘の感染例が確認された国はオーストラリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、英国、米国。日本国内では感染症発生動向調査で集計が開始された2003年以降、報告はない。

 サル痘は、西アフリカや中央アフリカの熱帯雨林地域における風土病。天然痘患者で見られる症状と酷似しているとされる。

 サル痘ウイルス感染による急性発疹性疾患で、日本では感染症法で4類感染症に位置付けられている。サル痘ウイルスの自然宿主はアフリカに生息する齧歯類が疑われているが、現時点では不明だ。サル痘ウイルスの動物からヒトへの感染経路は、感染動物にかまれること、感染動物の血液、体液、皮膚病変(発疹部位)との接触が確認されている。

 国立感染症研究所によると、サル痘ウイルスのヒトからヒトへの感染はまれとされるが、「濃厚接触者やリネン類を介した医療従事者の感染の報告がある」という。患者の飛沫、体液、皮膚病変(発疹部位)を介した飛沫感染や接触感染が想定される。

致死率は天然痘20~50%、サル痘0~10%

 サル痘のヒトへの感染事例が初めて報告されたのは1970年のザイール(現コンゴ民主共和国)における男児で、それ以降ナイジェリアで大規模な流行が発生しており、特にコンゴ民主共和国では今年(2022年)1月以降1,152例の感染例および55例の死亡が報告されている。

 アフリカ以外でのサル痘感染例の最初の発生例は2003年の米国で、アフリカから輸入されたサル痘に感染したプレーリードッグとの接触によるものとされる。また、流行地域からの帰国者で散発的に発生報告が見られ、2018年の英国では、ナイジェリアからの帰国者2例と患者に対応した医療従事者1例が報告され、患者が使用したリネン類からの感染が疑われているという。

 天然痘に比べ重症化しにくく、致死率は天然痘の20~50%に対し、サル痘では0~10%。ただし、幼児では重症化リスクが高いとされる。

天然痘ワクチン接種の中止で浮上

 ヒトでのサル痘の潜伏期間はおおむね6~13日。潜伏期間の後、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1~5日続き、その後発疹が出現する。発疹はまず顔面に現れ、体幹部へと広がる。体液・寝具類、衣服・物との接触などによりヒトからヒトへの感染が起こりうる。天然痘ワクチン未接種の若年世代や、小児、妊婦、基礎疾患があり免疫抑制状態の人では感染すると重篤になる可能性があるとされる。

 WHOによると、1980年に天然痘が地球上から根絶され、天然痘ワクチン接種が中止されたことで、サル痘は公衆衛生において最も懸念されるウイルスとして浮上してきた。サル痘感染予防には、天然痘のワクチンである痘瘡ワクチンが有効とされるが、日本では1976年以降、痘瘡ワクチンの接種は行われていない。WHOは「現時点で今回の流行に関連する死亡者の報告はない」としながらも、「患者が発生している国や他のWHO加盟国においても感染が拡大する可能性は高い」とし、警戒感を示している。

 サル痘ウイルス感染初期には、水痘、麻疹、梅毒やそれ以外の発疹との鑑別が困難な場合がある。リンパ節腫脹の発生頻度は高く、国立感染症研究所は「類似した皮膚症状を呈する水痘または天然痘と区別するための臨床的特徴で、鑑別に有用」としている。

 なお、サル痘と名付けられた由来は、1958年にデンマークの研究所で世界各国から霊長類が集められた施設にいたカニクイザルで最初に発見されたため。

(小沼紀子)