英・University College LondonのSarega Gurudas氏らは、英国とインドの2型糖尿病患者を含む成人500例超を対象に、失明の恐れがある糖尿病網膜症(sight-threatening diabetic retinopathy;STDR)の血中バイオマーカー候補13種の有用性を検証する多施設横断研究を実施。その結果、循環血液中のシスタチンC濃度は、医療資源が乏しい低・中所得国においてSTDRの高リスク患者を網膜スクリーニングの優先対象として選別するための有用なバイオマーカーになりうることが示されたとJAMA Ophthalmol(2022年5月5日オンライン版)に発表した。
網膜症なしの糖尿病患者に比べ12~38%上昇
STDRの早期検出・治療には、全ての糖尿病患者に対する1~2年に1回の定期的な網膜スクリーニングが推奨されるが、糖尿病患者の約80%が居住する低・中所得国では必ずしも実現可能ではない。そのような資源の限られた環境では、血中バイオマーカーを用い、STDRのリスクが高い患者を網膜スクリーニングの優先対象として選別できれば有用であると考えられる。
そこでGurudas氏らは、2018年10月22日~21年12月31日に英国とインドで40歳以上の成人538例(英国274例、インド264例、平均年齢60.8歳、男性59.3%)を登録。眼底撮影および光干渉断層撮影法(OCT)の結果に基づき、①2型糖尿病の既往なし、②2型糖尿病の罹病期間が5年以上で糖尿病網膜症(DR)なし、③糖尿病黄斑浮腫を伴う非増殖性DR、④増殖性DRーの4群に分類。その上で、妥当性が確認されているDRの血中バイオマーカー13種類について、STDR群(③および④)と非STDR群(②)で測定値を比較してオッズ比(OR)を算出。糖尿病患者におけるSTDRの識別能を評価した。
年齢、糖尿病罹病期間、人種/民族、HbA1cを調整後のロジスティック回帰分析の結果、STDR群で有意差が認められたバイオマーカーは、英国ではシスタチンC〔10%上昇ごと:オッズ比(OR)1.12、95%CI 1.02~1.23、P=0.02〕およびロイシンリッチα2糖蛋白質(LRG)-1(10%上昇ごと:同1.06、1.00~1.11、P=0.03)の2種、インドではシスタチンC(10%上昇ごと:同1.38、1.16~1.63、P<0.001)、補体因子(CF)B(100μg/mL上昇ごと:同0.48、0.29~0.78、P=0.003)、アファミン(1μg/mL上昇ごと:同0.97、0.95~1.00、P=0.06)、リポ蛋白関連ホスホリパーゼ(Lp-PL)A2(100ng/mL上昇ごと:同0.68、0.45~1.02、P=0.06)の4種類だった。
受信者動作特性(ROC)解析を用いたSTDR識別能の評価では、既知の危険因子である年齢、糖尿病罹病期間、人種/民族、HbA1cによるベースモデルでの曲線下面積(AUC)が英国とインドでそれぞれ0.735(95%CI 0.652~0.818)、0.551(同0.447~0.654)だったのに対し、ベースモデルにシスタチンCを追加した場合のAUCは0.779(同0.700~0.857)、0.696(同0.602~0.791)といずれも高値を示した。
以上を踏まえ、Gurudas氏らは「両国において、血中シスタチンCは十分なSTDR識別能を有することが示された。2型糖尿病患者全例への網膜スクリーニングを行うことが困難な低・中所得国において、血中シスタチンCは網膜スクリーニングの優先対象を絞る有用な手段になりうる」と結論している。
(太田敦子)