久留米大学呼吸器神経膠原病内科部門准教授の東公一氏らのグループは、進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療前の血中アミノ酸プロファイルを解析することで、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が有効な症例を選別できることを明らかにした。詳細は、J Immunother Cancer(2022; 10: e004420)に発表された。

血中アミノ酸濃度と全生存との相関を検討

 ICIは各種がん治療で用いられるが、高額な一方、臨床効果は患者によって異なる。そこで、ICIの臨床効果を予測可能なバイオマーカーが重要となるが、現在、抗PD-1/PD-L1抗体の既存バイオマーカーの臨床的評価は定まっておらず、容易に採取可能な末梢血を用いて測定できるバイオマーカーの開発が望まれている。

 アミノ酸は、がん細胞の増殖や免疫細胞の機能制御に必須の栄養素である。東氏らは今回、血中アミノ酸および代謝物パラメーターの組み合わせにより、がん患者の免疫状態を把握し、ICIの治療効果を予測できるかどうかを検証する観察研究を実施した。

 今回の解析では、久留米大学病院で抗PD-1/PD-L1抗体による治療を受けた進行・再発NSCLC患者53例を対象に、治療前の血中アミノ酸とその代謝産物(36種)の濃度を質量分析計で測定し、全生存との相関を検討した。

 対象の主な患者背景は、平均年齢が69.7歳、男性が75%、喫煙歴はありが75%。全身状態(PS)は0~1が71%、2~3が29%、病期はⅢ期(化学療法後の再発)が13%、術後の再発が26%、Ⅳ期が60%。扁平上皮がんが28%、ドライバー遺伝子変異は野生型が77%、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異が21%。治療歴は一次治療が38%、二次治療が42%、三次治療が13%、それ以上が8%。ICIの内訳はニボルマブが47%、ペムブロリズマブが53%などであった。

アルギニン、セリン、グリシン、キノリン酸の組み合わせで効果を予測

 4種のアミノ酸・代謝物(アルギニン、セリン、グリシン、キノリン酸)濃度を組み合わせて作成した判別式を用いると、ICIの治療効果が高い患者を高精度に選別できた(図1-左)。また、腫瘍組織におけるPD-L1発現の高い集団でも治療効果が予測でき(図1-右)、バイオマーカーとして有用な可能性が示された。

図1. アミノ酸プロファイルによる治療効果予測

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 次に、末梢血単核球における遺伝子発現を解析して免疫細胞の発現頻度を調べると、ICI無効群に比べ有効群ではCD8陽性T細胞やマクロファージ(M1型)が高かった。

 さらに、患者選別に有効であった先述の4種のアミノ酸・代謝物の濃度と免疫関連遺伝子の発現との相関を調べた。その結果、アルギニン・セリン・グリシン濃度がT細胞関連遺伝子と正の相関を、マクロファージ(M2型)遺伝子と負の相関を示した。一方、キノリン酸濃度はT細胞関連遺伝子と負の相関を、マクロファージ(M2型)遺伝子と正の相関を示した(図2)。

図2. アミノ酸プロファイルと免疫関連遺伝子発現との相関

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 これらの結果から、末梢血のアミノ酸プロファイルはがん患者の免疫状態を反映すると考えられた。

臨床応用で治療成績の向上や不必要な治療の回避に期待

 末梢血単核球におけるアミノ酸代謝関連遺伝子の発現も調べたところ、ICIの有効群と無効群において発現差を認める遺伝子が12種類同定された。これらのアミノ酸代謝関連遺伝子の発現と患者選別に有効であった4種のアミノ酸・代謝物濃度との相関を見ると、多くの遺伝子で正または負の相関を認めた。とりわけSLC11A1(P<0.001)、HAAO(P=0.021)、PHGDH(P=0.021)の3種類のアミノ酸代謝関連遺伝子の発現量とICIの臨床効果が相関していた。

 以上から、アミノ酸代謝関連遺伝子の発現を介したアミノ酸プロファイルの変化はがん患者の免疫状態を制御し、ICIの治療効果に影響している可能性が示唆された(図3)。

図3. アミノ酸代謝と抗腫瘍免疫応答 

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(図1~3とも日本医療研究開発機構プレスリリース)

 東氏は「アミノ酸プロファイル解析がICIの臨床効果を予測するバイオマーカーとして臨床応用されれば、高い効果が期待できる患者選択が可能となり、治療成績の向上や不必要な治療による不利益(有害事象合併・医療費浪費)の回避につながることが期待される」と個別化がん免疫療法の可能性を展望している。

 今回は単施設での検討だったが、多施設かつより大規模な集団で検討すべく、現在、ICI+化学療法を併用した進行または再発NSCLC患者を対象とした検討(jRCT1031190196)が進行中だという。

編集部