心不全、がん、心房細動(AF)には、喫煙や食事などの生活習慣が危険因子という共通点がある。東北大学大学院循環器内科学分野准教授の後岡広太郎氏らの研究グループは、心不全患者4,876例のデータを用いてこれら3疾患の関連を検討。その結果、がんの既往歴がありAFを合併している心不全患者では、脳卒中などの血栓症と出血のリスクが上昇することが分かったとESC Heart Fail2022年4月17日オンライン版)に発表した。

3疾患を合併した患者の予後は不明

 心不全患者では、がん発症率と死亡率が高く、心不全およびがん患者ではAFを合併する割合が高い。一方、これら3疾患を合併した場合、寿命やQOLへの影響は不明だった(図1)。

図1. 心不全、心房細動、がんの相関

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 また心不全、がん、AFは、いずれも血栓リスクを高めるため抗血栓療法が必要となるが、出血リスクへの懸念から治療困難となるケースも少なくない。しかし、これまで3疾患の合併例における抗血栓療法と治療経過の実態は明らかにされていなかった。そこで後岡氏らは今回、東北大学が行っている第二次東北慢性心不全登録研究(CHART-2研究)に参加した心不全患者4,876例(平均年齢69歳±12、女性31.9%)をがん既往およびAFの有無で、①がん既往(-)AF(-)、②がん既往(-)AF(+)、③がん既往(+)AF(-)、④がん既往(+)AF(+)―の4群に分類。心不全、がん、AFの関連を検討した。主要評価項目は脳卒中、全身塞栓症、重大な出血の複合とし、競合リスクモデルを用いた回帰分析により、部分分布ハザード比(sHR)を算出した。

75歳以上、虚血性心血管疾患例では複合リスクが2倍超に

 解析の結果、がん既往(-)AF(-)群に対しがん既往(+)AF(+)群では、複合イベントリスクが有意に高かった(sHR 1.64、95%CI 1.04~2.60、P=0.033)。特に75歳以上の高齢者(同2.14、1.01~4.53、P=0.046)、狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患を合併している患者では、脳卒中・全身塞栓症・大出血リスクが高くなることが示された(図2)。

図2. がん既往/心房細動の有無別に見た複合イベントリスク

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(図1、2とも東北大学大学院プレスリリースより引用)

がん既往+AF例の約4割が抗凝固療法未施行

 また血栓症のリスクが高いにもかかわらず、がん(+)AF(+)群の36%が適切な抗凝固療法を受けていなかった。これには、出血リスクへの懸念が影響している可能性が示唆される。

 以上を踏まえ、後岡氏らは「大規模研究により、がん既往歴とAF合併が心不全患者、特に高齢者と虚血性心疾患例において脳卒中、全身塞栓症、大出血の複合リスクを高めることを明らかにした。今後の新たな治療戦略に繋がることを期待する」と述べている。

(小野寺尊允)

第二次東北慢性心不全登録研究(CHART-2研究:Chronic Heart Failure Analysisand Registry in the Tohoku District-2):東北大学循環器内科が実施中の心不全患者の治療経過に関する多施設前向き観察研究。2006年~10年まで、のべ1万0,219例の患者登録を行い、2021年まで追跡調査が実施された国内における、大規模の慢性心不全の疫学研究。