新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大をきっかけに世界各国で在宅勤務が広がり、業務に必要な会議もオンラインで開かれる機会が増えた。米・Columbia UniversityのMelanie S. Brucks氏らは、対面での会議と比べてウェブ会議では出席者から出てくるアイデアの数が少なく、創造的なアイデアが生まれにくいことが分かったとする研究結果をNature(2022;605:108-112)に発表した。
5分間に出たアイデア数はウェブ15個 vs. 対面17個
COVID-19の世界的流行をきっかけに在宅勤務が各国で広がったが、多くの国々で感染が鎮静化しつつある現在も、その継続を望む声は多い。2021年の調査では米国内の被雇用者の75%が週1日以上のリモート勤務を望み、40%が通勤を伴うフルタイム勤務を求められた場合は退職したいとの意向を示していたことが明らかにされている。こうした労働者の意識の変化を受け、職種を問わず多くの大企業がより柔軟な在宅勤務制度の導入に積極的な姿勢を示している。
一方で、在宅勤務の普及に伴い対面でのコミュニケーションの機会は激減した。そこで、Brucks氏らは今回、会議で複数の出席者が共同でアイデアを出す際に、その効率面からもウェブ会議が対面での会議の代わりになりうるかを検討するため、2種類の実験を行った。
まず、602人の男女を組み入れた1つ目の実験的研究では、ランダムにペアを組んだ参加者を対象に、フリスビーや梱包用の気泡緩衝材の独創的な使用方法についてアイデアを出す話し合いを企画し、対面で行う群とウェブを介して行う群にランダムに割り付けた。アイデア生成のために与えられた時間は5分間だった。その後、両者から出たアイデアの中で最も創造性の高いアイデアを1分間で選んでもらった。
その結果、5分間の会議で出されたアイデアの数は、対面会議群の平均16.77個〔標準偏差(SD)7.27個〕に対してウェブ会議群では平均14.74個(SD 6.23個)と少なかった(負の二項回帰分析におけるP=0.007)。また、創造的なアイデアの数も、対面会議群の平均7.92個(SD 3.40個)に対してウェブ会議群では平均6.73個(SD 3.27個)と少なかった(同、P=0.002)。
ただし、アイデアの選定に関しては、対面会議と比べてウェブ会議の方が選ばれたアイデアの創造性を示すスコアが高く、追求すべきアイデアの選択では対面会議よりもウェブ会議の方が優れている可能性が示された。
意思決定の質はウェブ会議で優れる
次に、この結果の一般化可能性について検証するため、通信インフラ企業の欧州、中東、南アジアの5カ国の支社でエンジニア1,490人を対象とした実験も行った。対象者は新製品のコンセプトを考案するワークショップの参加者で、ペアを組んだ上で対面会議群またはウェブ会議群のいずれかにランダムに割り付けた。
この実験では各ペアに新製品のアイデアを出す時間として1時間与え、その後アイデアを選定し、さらに発展させた上で企業のイノベーションにつながる製品アイデアとして提示してもらった。
その結果、出されたアイデアの数は対面会議群の平均8.58個(SD 6.03個)に対してウェブ会議群では平均7.43個(SD 5.17個)と少なかった(負の二項回帰分析におけるP=0.002)。また、このような関連は5カ国全てで共通して認められた。一方で、出された新製品のアイデアの中から創造性の高いアイデアを選定する際の意思決定の質は、対面会議よりもウェブ会議の方が優れていることを示す予備的なエビデンスも得られた。
視覚的注意の向かう範囲が狭くなることが影響か
Brucks氏らは、これまでの研究から視覚的注意と認知的注意に関連があることが示されていることを指摘。「画面上の相手と話す場合、視覚的注意が向かう範囲がスクリーン上の限られた部分に限定され、認知的注意が向かう範囲も狭くなる。注意が向かう範囲が狭くなると、アイデアの生成に不可欠な連想処理がされにくくなる」としている。
ただし、同氏らは「画面上のコミュニケーションによって認知的注意が向かう範囲が狭くなることは、全ての共同作業を阻害するわけではない。例えば、アイデア生成の後、追求すべきアイデアの選択が行われることが多いが、このプロセスには認知的集中力と分析的思考が必要となる。今回の研究では、対面での会議と比べてウェブ会議では創造的なアイデアは生まれにくいが、アイデアを選択する場合にはウェブ会議が劣っていることを示すエビデンスは得られなかった」と説明している。
(編集部)