脳梗塞急性期を対象に、体性幹細胞再生医薬HLCM051の開発を進めているバイオベンチャーのヘリオスは5月20日、同薬の第Ⅱ/Ⅲ相試験TREASUREの結果(速報値)を解析し、主要評価項目が未達だったと発表した。同社は5月23日に記者会見を開き、社長の鍵本忠尚氏が試験結果の解釈や承認申請方針などについて説明した。同氏は「再生医療等製品として国内の被験者200例を登録した大規模ランダム化比較試験において、副次評価項目(脳梗塞発症後の患者が自立した生活ができることを示す指標)でHLCM051群の有意差が示された。患者にメリットをもたらすだけでなく、介護費用の削減も期待できるなど意義は大きい」と指摘。同製剤の承認申請に向け、規制当局と協議を進める方針を示した。

投与90日後、365日後の速報値

 HLCM051は、免疫応答の場である脾臓で炎症免疫細胞の活性化を抑制することにより、炎症や免疫反応を抑えて神経細胞の損傷を抑制する他、抗炎症性細胞を増殖させて栄養因子を放出することで神経保護作用などが期待されている。米・アサシス社が創製した製剤で、ヘリオスは国内での脳梗塞および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対する開発・販売権を取得し、脳梗塞急性期への新規細胞治療法として開発を進めていた。静脈内注射(点滴)で、免疫抑制薬が不要とされる。投与後は体内に蓄積せずに消失することが確認されている。

 TREASUREは中等度~重度の脳梗塞患者を対象とし、発症後18~36時間以内にHLCM051またはプラセボを1回投与し、有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験。206例を登録しており、国内の再生医療等製品の臨床試験としては最大規模だという。

 今回、投与90日後と365日後の速報値を発表した。主要評価項目は投与後90日後のExcellent Outcome(優れた転帰)の達成率、副次評価項目はGlobal Recovery(全般的機能回復)の達成率とした。

 主要評価項目であるExcellent Outcomeは、脳卒中患者の機能評価に使われるmodified Rankin Scale(mRS:概括障害度)、米国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS:神経症状障害度)、Barthel Index(BI:日常生活活動指標)の3指標において、90日後に「mRSおよびNIHSSが1以下、BIが95以上を満たした場合(全く後遺症がないほど改善した状態)」と定義した。

 副次評価項目の1つであるGlobal Recoveryは「mRSが2以下、NIHSSが75%以上改善、BIが95以上を満たした場合(患者自身が介護を必要とせずに自立して生活している状態)」と定義した。

主要評価項目未達の要因の1つは、被験者の年齢か

 解析の結果、投与90日後、365日後のいずれにおいても、Excellent OutcomeはHLCM051群の15.4%に対しプラセボ群では10.8%と有意差は認められなかった。一方、Global Recoveryに関しては、投与365日時点でプラセボ群の15.7%に対しHLCM051群で27.9%と有意差が認められた(P<0.05)。BI 95以上については、投与365日時点においてプラセボ群の22.5%に対しHLCM051群では35.6%(P=0.05)と有意差は示せなかったものの、鍵本氏は「治療効果があるという傾向を示せた」と述べた。

 主要評価項目が未達だったことについて、同氏は「残念だった」と述べた。脳梗塞急性期に対するHLCM051については、アサシス社が米国および英国で実施した臨床試験から、安全性および一定の条件(脳梗塞の発症後早期にHLCM051が投与された患者) で治療効果が期待されるとしている。

 今回国内で実施したTREASUREにおいて、主要評価項目を達成できなかった背景や理由について、同氏は「米国で行われた第Ⅱ相試験MASTERS-1に登録された被検者の年齢中央値63歳に対し、日本の第Ⅱ/Ⅲ相試験では78歳と15歳高齢だった」と患者背景に大きな差があった点を指摘した。対象が高齢だったため「回復が遅れ、改善効果も低くなった可能性があり、主要評価項目で有意差を示せなかった理由の1つと考えている」と説明した。

 さらに、TREASUREではプラセボ群で良好な改善効果を示した要因について「完全には分からない。日米における被験者の転帰の差は、恐らくだが、日本ではリハビリテーションの寄与度が大きいのではないか。脳梗塞発症後に患者が医療機関に搬送されるまでの時間や医療保険制度に起因する医療アクセスの良さなど、さまざまな理由も挙げられる」との見方を示した。

 一方で、「患者が脳梗塞発症後にもかかわらず介護を必要とせず、自立して生活できることを示す指標で有意差が認められた。介護負担が不要になる患者を減らし、医療経済的にも意義がある」と同氏は強調。今後の承認申請の見通しについて「まずは条件付き承認ではなく、通常の承認を目指していく」との考えを提示した。「規制当局と話し合いを進めていきたい。非常に利点のある治療法なので、どこかで合意できる範囲があると期待している」と力を込めた。

治療法限られる中、選択肢拡大に向けて承認目指す

 現状の脳梗塞急性期に対する治療法は、血栓溶解療法(t-PA静注)や機械的血栓回収療法が用いられるが、血栓溶解療法の適応は脳梗塞発症後4.5時間以内、機械的血栓回収療法でも8時間以内に使用が限定されている。鍵本氏は「t-PAの適応となる時間が経過してしまった患者には有効な治療法がない。HLCM051が承認されれば、脳梗塞発症18~36時間以内であれば治療選択肢となる」と、承認を目指す考えを示した。

 今回の結果は現時点での速報値であることから、同社では「引き続き治験データの詳細な解析を行う」としている。なお、HLCM051は厚生労働省から再生医療等製品として2017年2月に先駆け審査指定制度対象品目の指定を受けている。

(小沼紀子)