新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行を背景に、多くの医療機関で感染拡大防止を目的として入院患者の面会を禁止する措置が講じられた。こうした中、米・University of Colorado School of Medicine のTimothy Amass氏らは、COVID-19で集中治療室(ICU)に入室した患者の家族を対象に多施設共同研究を実施。約6割に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の明確な症状が認められたとする結果をJAMA Intern Med(2022年4月25日オンライン版)に報告した。
米国12施設のICU患者の家族330人を調査
ICU入室患者の家族ではPTSDや抑うつ、不安などのストレスに関連した症状がよく見られ、COVID-19パンデミック以前に報告された研究では、患者家族の約15~30%でPTSDなどの症状が認められたとされている。一方、家族がベッドサイドで患者に関わることが、家族のPTSDなどのストレス関連症状の軽減につながることも先行研究で示されている。
そこで、Amass氏らは今回、COVID-19のパンデミック時における面会規制がCOVID-19重症患者の家族のストレスに与えた影響について検討するため、コロラド州、ワシントン州、ルイジアナ州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州の病院12施設で前向き観察研究を実施した。
対象は、2020年2月1日~7月31日にCOVID-19と診断され、酸素投与が必要な状態でICUに入室した患者の家族計330人。このうち102人には定性調査も実施した。
主要評価項目は3カ月後のPTSD、不安および抑うつの明確な症状とした。なお、PTSDの明確な症状はImpact of Event Scale-Revised(IES-R)の6項目で構成されるImpact of Event Scale 6(IES-6、0~24点にスコア化)が10点以上の場合と定義。また、不安および抑うつの症状はHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)の不安に関する項目(HADS-A)と抑うつに関する項目(HADS-D)を用いて評価し、それぞれ8点以上の場合に明確な症状と判定した。
女性、ヒスパニック系などでリスク高く
対象者の平均年齢は51.2歳で、女性が69.1%、白人が52.8%、ヒスパニック系が29.8%を占めていた。患者との関係は、娘または息子が40.6%、配偶者またはパートナーが25.5%だった。
3カ月後の時点におけるIES-6の平均スコアは11.9点で、対象者の63.6%に明確なPTSD症状が認められた。また、IES-6の平均スコアは男性と比べて女性で2.6点高く(95%CI 1.4~3.8点、P<0.001)、非ヒスパニック系と比べてヒスパニック系で2.7点高かった(同1.0~4.3点、P=0.002)。一方、同スコアは学歴が大学院卒の人では高卒以下の人と比べて3.3点低かった(同1.5~5.1点、P<0.001)。
PTSD症状の強い人は医療従事者に強い不信感
定性調査では、PTSD症状のスコアが低い人と高い人の間に情動あるいはコミュニケーションに関連した経験の違いは認められなかったが、PTSD症状のスコアが高い人では医療従事者に対してより強い不信感を示していた。
Amass氏らは「COVID-19のパンデミック初期に米国のICUに入室した同患者の家族の多くが、3カ月後および6カ月後にPTSDの明確な症状を報告していた。その頻度はパンデミック以前と比べて高かった」とした上で、面会規制によってICU入室患者の家族におけるストレス関連障害が増え、二次的な公衆衛生上の危機がもたらされた可能性を指摘。その上で「今後、ICUに入室した患者の家族に対し、患者に面会できないことに伴う経験を改善するための介入法について検討する必要がある」と述べている
(岬りり子)