IoTが身近になり、腕時計のように身に着けて手軽に心拍数などの生体情報が取得できるウエアラブルデバイスは、一般用・医療用ともに世界中で普及が進んでいる。東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と第一三共、武田薬品工業、株式会社MICINは、ウエアラブルデバイスを用いて1年間の生活習慣データを取得する共同研究を開始したと発表。研究期間は今年(2022年)3月~25年3月までを予定しているという。
客観的トラッキングデータとコホートデータの融合
これまで、生活習慣が個人の健康状態に影響を及ぼすことが明らかにされている。ToMMoが進める一連のコホート調査では、生活習慣が主な要素である環境要因とゲノム情報に代表される遺伝要因が複雑に組み合わさり、疾患の発症に至る仕組みを解明する目的で、参加者から多様な情報を収集している。
調査では、自記式調査票を用いて、生活習慣の情報を取得している。しかし、調査票から得られる情報は極めて重要性が高い半面、参加者の主観に基づく回答情報であることから、客観的・定量的な研究を行う上で限界があった。
このような背景から、ToMMoと日本製薬工業協会、MICINは2020年11月に、ウエアラブルデバイスを用いた「脳と心の健康調査参加者を対象としたウエアラブル機器による生活習慣データ取得実現に向けた予備的研究」としてパイロット研究を実施。少なくとも1カ月間は、参加者が着用したウエアラブルデバイスからデータを継続的に取得、蓄積できることが示された。この結果を受け、今回の共同研究が計画された。現時点で約30人に1年間ウエアラブルデバイスが貸与されており、少なくとも1カ月間は参加者が定められた方法通りにウエアラブルデバイスを着用し、詳細かつ客観的な生活習慣データの蓄積が可能なことが示された。さらに長期にわたり生活習慣データを取得できることが想定されている。
膨大なゲノム・医療・ヘルスケアの融合とビッグデータを活用した新手法への期待
今回の対象は、今年の秋に開始する脳と心の健康調査*1の参加予定者で、研究への同意が得られた2,000人(目標参加人数)。参加者にウエアラブルデバイスを装着してもらい、睡眠状態・心拍・活動量などの生活習慣に関するデータを長期間にわたり取得。先行のコホート調査などのデータと統合することを目指している。
研究方法は、参加者に①1年間のウエアラブルデバイスの装着および専用のスマートフォンアプリの管理、②貸与した家庭血圧測定器を用い四半期ごとに30日間、1日2回の血圧測定、③自動で周辺環境の温度・湿度のデータを測定・保存するデータログ型温湿度による四半ごとに30日間、寝室の温度・湿度の取得(一部)、④四半期ごとの郵送による調査票への回答―を行ってもらう。
研究者は、ウエアラブルデバイス、家庭血圧測定器およびデータログ型温度計により収集したデータの保管と活用、統計解析値の参加者への回付を行う。
取得したデータは、東北メディカル・メガバンク計画*2のコホート調査で取得した詳細調査データ、臨床データ、MRI画像データやゲノム情報などと統合し関連解析を行う(図)。
図. ウエアラブルデバイスを実装したデータ解析方法
(東北大学プレスリリースより引用)
1年間にわたり収集した生活習慣データを基に、生活習慣と健康・疾病との関連をより詳細に解析することが可能となり、精密医療や個別化ヘルスケアの実現を目指した創薬など、革新的医学研究への応用の加速が期待される。
(小野寺尊允)
*1 2014年5月から行っているMRI検査と認知心理検査。1回目調査には約1万2,000人が参加し、現在は2回目調査を実施している
*2 東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興と個別化予防・医療の実現を目標とする。ToMMoと岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、2013年より計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査などを実施し、試料・情報を収集したバイオバンクを整備。2015年度以降、日本医療研究開発機構(AMED)が同計画の研究支援担当機関となっている