禁煙にはニコチン置換療法(NRT)などの介入法が有効であることは示されているが、長期的な効果は限定的である。こうした中、うつ病や疼痛などの新たな治療選択肢として普及しつつある反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)や経頭蓋直流電気刺激(tDCS)などの非侵襲的脳刺激(NIBS)の禁煙継続における有効性が複数の研究で示されている。フランス・University Hospital of DijonのBenjamin Petit氏らは、NIBSの長期的な禁煙継続効果について検討するため、システマチックレビューとメタ解析を実施。NIBSで3~6カ月間の禁煙率が改善する可能性が示されたとする解析結果をAddiction(2022年4月25日オンライン版)に報告した。
先行研究で喫煙頻度の低下示される
たばこ使用障害は他の物質使用障害と同様、嗜癖行動であるため止めることが困難であり、医学的な支援なしでの禁煙率は極めて低い。そこで、NRTなど幾つかの有効性が確認された治療法が禁煙のためのツールとして推奨されている。また、認知行動療法(CBT)などの精神療法によるアプローチについても研究が進められており、有望な結果が得られている。しかし、NRTなどの有効性が確認された治療法でも長期的な禁煙の成功率は低い。
一方、疼痛管理や減量、アルコール使用障害、うつ病などの治療では、非薬物療法の新たな選択肢としてTMSやtDCSといったNIBSが広がりつつある。このうちTMSに関しては、喫煙者を対象としたランダム化比較試験(RCT)で短期的な禁煙達成に有効であったことが示されている他、rTMSやtDCSが喫煙頻度の低下に関連していたとするメタ解析の結果も報告されている。
しかし、長期的な禁煙継続におけるNIBSの有効性については明確なデータがなかったことから、Petit氏らは今回、短期的および最長で12カ月間の長期的な禁煙におけるNIBSの有効性を評価するため、システマチックレビューとメタ解析を実施した。
7件のRCTのデータを解析
Petit氏らはまず、PubMed、Cochrane library、Embaseなどのデータベースを用いて2021年5月までに発表された文献を検索。禁煙する意思のある喫煙者を対象にNIBS(rTMSまたはtDCS)を施行し、追跡期間が4週間以上であったRCT 7件(計699例)を組み入れた。禁煙はintention-to-treat法により評価し、効果量はリスク比(RR)を指標とした。
いずれのRCTも対照群ではNIBSのシャム治療が施行されていた。また、解析可能なデータは3~6カ月間のデータのみであった。
これら7件のRCTを統合して解析した結果、シャム治療群と比べてNIBS群では禁煙継続のRRが2.39(95%CI 1.26~4.55、I2=40%)だった。また、サブグループ解析から左背外側前頭前野(DLPFC)への興奮性rTMS(RR 4.34、95%CI 1.69~11.17、I2=0%)、外側前頭前野および両側の島皮質への深部rTMS(RR 4.64、95%CI 1.61~13.39、I2=0%)では特にRRが高いことが示された。ただし、組み入れたRCTのうち4件はバイアスリスクが高かった。
Petit氏らは「対象としたRCTは刺激パラメータや手法にばらつきがあったが、3~6カ月間の禁煙継続においてNIBSはシャム治療と比べて有効である可能性が示された」と説明。また、「より精度の高い研究の結果を待つ必要はあるが、近い将来、NIBSが禁煙したいと考える人たちを助ける選択肢の1つとして認識されるようになるかもしれない」と述べている。
(岬りり子)