イタリア・Fondazione Policlinico Universitario Agostino GemelliのLuca Richeldi氏らは、特発性肺線維症(IPF)患者147例を対象に、新規治療薬候補のホスホジエステラーゼ(PDE)4B阻害薬BI 1015550の有効性と安全性を検討する第Ⅱ相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験を実施した。解析の結果、PDE4B阻害薬を12週間投与した群では、プラセボ群に比べて肺機能の低下が抑制されたとN Engl J Med2022年5月15日オンライン版)に報告した。

PDE4の阻害が抗炎症、抗線維化と関連

 現在日本では、IPFに対しニンテダニブとピルフェニドンの2つの抗線維化薬が承認されているが、いずれも線維化の進行を遅らせることはできても止めることはできない。炎症および線維化と関連するPDE4の阻害は、IPF治療に有用である可能性がある。

 そこでRicheldi氏らは、IPFに対するPDE4B阻害薬の有効性と安全性を検討する第Ⅱ相ランダム化二重盲検プラセボ比較試験を実施した。

 対象は、22カ国90施設で登録した40歳以上のIPF患者147例。胸部CTで間質性肺炎の所見があり、%努力肺活量(%FVC)が45%以上、ヘモグロビン値で補正した一酸化炭素に対する肺の拡散能(DLCO)が予測値の25%以上80%未満を選択基準とした。抗線維化薬(ニンテダニブまたはピルフェニドン)は、スクリーニングの8週間以上前から安定用量を投与されている患者では継続した。除外基準は、気道閉塞、最近の気道感染、過去4カ月以内のIPF急性増悪、1日15mg以上のプレドニゾン投与、過去2年間の自殺企図歴とした。

 対象をPDE4B阻害薬群(18mgを1日2回投与)とプラセボ群に2:1でランダムに割り付け12週間治療した後、1週間追跡した。

 主要評価項目は12週間後におけるFVCのベースラインからの変化量とし、抗線維化薬の使用の有無で層別化しベイズ法を用いて解析した。

 副次評価項目は、治療期間中(1週間の追跡期間を含む)に有害事象が発生した患者の割合とした。

FVC変化量はPDE4B阻害薬群で5.7mL、プラセボ群で-81.7mL

 解析の結果、抗線維化薬を使用していない患者におけるFVC変化量の中央値はPDE4B阻害薬群(48例)で5.7mL(95%CI -39.1~50.5mL)、プラセボ群(25例)で-81.7mL(同 -133.5~-44.8mL)であった(差の中央値88.4mL、95%CI 29.5~154.2mL、PDE4B阻害薬がプラセボに対して優れている確率99.8%)。

 抗線維化薬を使用している患者におけるFVC変化量の中央値はPDE4B阻害薬群(49例)で2.7mL(95%CI -32.8~38.2mL)、プラセボ群(25例)で-59.2mL(95%CI -111.8~-17.9mL)であった(差の中央値62.4mL、95%CI 6.3~125.5mL、PDE4B阻害薬がプラセボに対して優れている確率98.6%)。

 なお、混合モデル反復測定による解析の結果も、ベイズ解析の結果と一致していた。

 有害事象で最も頻度が高かったのは下痢で、PDE4B阻害薬投与群の13例が有害事象により投与を中止した。重篤な有害事象の割合は両群で同程度であった。

 以上から、PDE4B阻害薬の単独投与または抗線維化薬との併用投与により、IPF患者における肺機能の低下抑制が示された。

 今回の結果についてRicheldi氏は、試験の規模が小さく期間が短いことを限界とし、「FVCの変化を判定するには十分であった。しかし、急性増悪や死亡などの臨床的に重要な事象に関するデータの収集や、患者QOLの変化の判定においては有意義なものではなく、第Ⅲ相試験が必要である」としている。

(今手麻衣)