英・Liverpool University Hospitals NHS Foundation TrustのHugh Adler氏らは、2018~21年に同国でサル痘と診断された患者7例を後ろ向きに検討し、サル痘に対する経口抗ウイルス薬の使用経験をLancet Infect Dis2022年5月24 日オンライン版)で報告。天然痘治療薬であるbrincidofovirが投与された3例は肝機能障害を来し、有効性が低いことが示唆された一方、tecovirimatを投与された1例では症状持続や上気道のウイルス排出期間が短縮された。英国では、サル痘を空気感染性high consequence infectious disease(HCID)に指定し警戒を強めており、サル痘に対する抗ウイルス薬の前向き研究が緊急に必要と指摘している(関連記事「サル痘、現時点の基礎知識はこれだ」)。

2018~21年に診断された7例を調査

 ヒトサル痘は、天然痘ウイルスの近縁種であるサル痘ウイルスによる人獣共通感染症で、発熱、発疹およびリンパ節腫脹を特徴とする。合併症には非感染性肺炎、脳炎、失明の恐れがある角膜炎、二次細菌感染症などがある。致死率は、主にコンゴ盆地に分布する株で1~10%、最近西アフリカ・ナイジェリアで流行した株で3%未満とされ、死亡例のほとんどが小児およびHIV感染者と報告されている。

 サル痘は過去5年間に人口密集地域で発生し、欧米などで報告が相次いでいる。サル痘に対して承認された治療薬は国外で1剤のみ存在する。tecovirimat(商品名TPOXX)という経口抗ウイルス薬で、欧州で天然痘、サル痘に対して承認を取得している。同薬については、米・食品医薬品局(FDA)が2018年7月にバイオテロ攻撃の発生に備えて天然痘治療薬として認可しており、サル痘にはInvestigational New Drug (IND)としての使用が可能だ。さらに、FDAは2021年6月にも天然痘に対する治療薬としてbrincidofovir(商品名Tembexa)を認可した。なお、これら2剤は日本国内では流通していない。

ナイジェリアから英国に輸入症例

 Adler氏らは、2018年8月~21年9月に英国のHCIDセンターで治療を受けたサル痘患者(任意部位からの検体がPCR検査でサル痘ウイルス陽性)7例(男性4例、女性3例)を特定し、臨床的特徴、長期的なウイルス学的所見および適応外の抗ウイルス療法に対する反応について検討した。

 サル痘患者7例中6例は30~50歳、1例は2歳未満(症例6)で、4例(症例1、2,4、5)はナイジェリアでサル痘ウイルスに感染。症例2は2018年、帰国直後にサル痘と診断され、院内感染により医療従事者1例が発症した(症例3)。2021年には旅行で英国を訪れた家族クラスターが発生した(新型コロナウイルス感染症の自主隔離期間中に父→最年少の子→母が発症:症例5~7、子供3人は陰性)(Euro Surveill 2021; 26: 2100745)。

 7例全例がサル痘ウイルスDNAに対してPCR陽性の多形皮膚病変を有し、6例がウイルス血症を呈した。その他の症状として、上気道スワブでウイルスDNAの長期検出、気分障害(症例1)、ウイルスDNA陽性の近位左大腿膿瘍(症例2、診断21日目に排膿)などが特徴的に見られ、PCR陽性長期化のため5例(症例1~4、6)が3週間以上(22~39日)隔離された。

tecovirimat投与後速やかにPCR陰性化

 初期の3例(症例1~3)では、発疹発症から約7日後にbrincidofovirの経口投与(200mg/週×3回)を開始したが、全例でアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)が上昇し最大値127~550U/L、初回または2回目投与後に治療を中止した。その他の重大な生化学的または血液学的障害は観察されなかった。

 3例(症例4~6)は、抗ウイルス療法を受けなかった。1例(症例4)は、発疹消失後鼠径リンパ節腫脹が進行し、退院後6週で軽度の再発を来した(皮膚病変および上気道スワブのPCR陽性)。

 1例(症例7)に対して発症4日後にtecovirimatの経口投与(600mgを1日2回、2週間)を開始、48時間後に血液および上気道からの検体はPCR陰性となり、24時間後から新たな病変は発生せず、1週間後に退院した。血液学的異常および肝臓や腎臓の障害は見られなかった。サル痘に感染しなかった子供3人は、サル痘ウイルスIgG陰性を示した。

ウイルス排出への対策と抗ウイルス療法の前向き研究を

 以上の結果から、Adler氏らは「調査したサル痘患者7例のほとんどが比較的軽度の症状経過を示し、臨床的特徴はナイジェリア、西アフリカ・クレード、米国の発症例で認められたものと類似していた。肺炎や細菌性敗血症など重篤な合併症は見られなかった」と報告。一方で、「ヒトサル痘は、HCIDネットワークを有し十分に設備の整った医療システムにも、独自の課題を提起した。数例では皮膚病変の痂皮形成後に長期のウイルス血症と上気道のウイルス排出が見られ、病院での隔離延長につながった」と指摘。抗ウイルス療法については、「サル痘に対する抗ウイルス薬の前向き研究が緊急に必要である」と結論づけた。

 tecovirimatで治療した患者は、一連の他の患者に比べて症状持続および上気道のウイルス排出期間が短く、退院前に有害事象は確認されなかった。同氏らは「サル痘は世界的な健康への脅威で感染拡大が懸念される。サル痘に対する最適な感染管理と治療戦略は確立されていないが、tecovirimatは前向き研究を行うに値する。将来のサル痘発生時において、上気道ウイルス排出による感染拡大への影響を検討する必要がある」と述べている。

(坂田真子)