スウェーデン・Linköping UniversityのSofie NyströmとPer Hammarströmの両氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とアミロイド関連疾患に見られる症状の共通性に着目し、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)スパイク蛋白質のアミロイド形成性をin vitroで検討。その結果、SARS-CoV-2スパイク蛋白質にアミロイド形成性を示す7種類の配列を同定し、スパイク蛋白質の誤った折り畳み(ミスフォールディング)によるアミロイド形成がCOVID-19および後遺症であるLong COVIDにおける多様な症状の出現に関与することが示唆されたとJ Am Chem Soc2022; 144: 8945-8950)に発表した。

アミロイド線維を形成する3種のペプチドを発見

 重症COVID-19患者では、呼吸器、心臓、腎臓、血管、脳神経系などの多臓器に複雑な症状が現れ、それらには全身性または局所性アミロイドーシスとの共通性が見られる。特に注目すべきものとして、COVID-19患者では血流中の細胞外アミロイド線維凝集体に関連する血栓形成が報告されている。そこでNyström氏らは、SARS-CoV-2スパイク蛋白質のアミロイド形成性に着目し、検討を行った。

 ペプチド混合物ライブラリーのアミロイド線維アッセイおよびWALTZアルゴリズムを用いた理論的予測の結果、SARS-CoV-2スパイク蛋白質に7種類のアミロイド形成性配列を同定した。1種類を除く全ての配列で蛋白質が正常に機能しなくなるミスフォールディングを示すβシート構造を有していた。単離された7種類のペプチド全てが、37℃下での培養により凝集体を形成した。

 7種類の20アミノ酸長の合成スパイクペプチドのうち、Spike192、Spike601、Spike1166の3種類のアミロイド線維形成の三基準〔チオフラビンT(ThT)による核形成依存性重合速度、コンゴレッド染色陽性、超微細線維性形態〕を満たしていた。中でも、Spike192は血流障害を引き起こす蛋白質分解酵素プラスミン耐性の線維状蛋白質フィブリン形成を誘導し、アミロイド形成性が高いことが判明した。

SARS-CoV-2スパイク蛋白質のアミロイド形成性を考慮すべき

 SARS-CoV-2スパイク蛋白質は、感染した宿主のⅡ型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)により切断され、宿主細胞への侵入が促進される。

 全長SARS-CoV-2スパイク蛋白質の単独培養ではアミロイド線維は形成されなかった。しかし、ウイルス感染の炎症部位で過剰に発現するセリンプロテアーゼの一種である好中球エラスターゼとSARS-CoV-2スパイク蛋白質を24時間、37℃で共存培養すると、明らかな分岐を有するアミロイド様線維が形成された。好中球エラスターゼはスパイク蛋白質を効率的に切断し、アミロイド形成性が最も高いアミロイド形成ペプチド194-203の蓄積をもたらすことも分かった。

 Nyström氏らは「SARS-CoV-2スパイク蛋白質のアミロイド形成性は、COVID-19およびLong COVIDを理解する上で重要である」と指摘した上で、「最近の研究で、COVID-19から回復した患者ではアミロイド関連疾患である2型糖尿病のリスクが上昇することが示されている。今回の研究は、in vitroにおける知見という限界はあるものの、COVID-19およびLong COVIDの機序解明に際しSARS-CoV-2スパイク蛋白質のアミロイド形成性を考慮すべきであることを示唆している」と述べている。

(太田敦子)