ヒト上皮成長因子受容体(ERBB)2陽性乳がん患者を対象としたMETTEN試験では、術前薬物療法として糖尿病治療薬メトホルミンの追加投与と乳がんの病理学的完全奏効(pCR)達成との関連が示されている(Front Oncol 2019; 9: 193)。同試験などの結果を踏まえカナダ・University of TorontoのPamela J. Goodwin氏らは、エストロゲン受容体(ER)/プロゲステロン受容体(PgR)陽性の乳がん患者を対象に、術後補充療法としてのメトホルミン追加投与の有効性と安全性を検討する第Ⅲ相プラセボ対照ランダム化試験MA.32を実施。プラセボ群とメトホルミン加投与群で、術後乳がんの無浸潤疾患生存期間(iDFS)の延長に有意差がなかったとJAMA2022; 327: 1963-1973)に報告した。

メトホルミンによる間接的・直接的な抗腫瘍作用が示唆

 観察研究において、メトホルミンを使用中の乳がん合併糖尿病患者では、乳がんのサブタイプによっては予後改善が得られることが報告されている。さらにメトホルミンは、糖尿病がない乳がん患者の空腹時インスリン値を低下させ、肥満に関連する生理機能を改善することが示されている。

 現時点でがんとメトホルミンの関連については、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)を介したインスリンシグナルの低下による間接的影響、PI3K経路およびレニン・アンジオテンシン系(RAS)経路を介したインスリンシグナル低下による間接的および直接的な抗腫瘍作用が考えられている。

 一部の介入研究では、乳がん切除前にメトホルミンを投与した患者で腫瘍マーカーであるKi67の低下が示されており(Cancer Invest 2014; 32: 150-157)、先述のMETTEN試験では、ネオアジュバント療法としてメトホルミンの追加により一塩基多型(SNP)rs11212617のCアレルが1コピー以上ある症例でpCR達成との関連が報告されている(前掲誌)。  

 それらを踏まえGoodwin氏らは、糖尿病がない手術可能な乳がん患者に5年間メトホルミンを投与することで無病生存(DFS)が改善するとの仮説を立て、MA.32試験を実施した。

2回目の中間解析でER/PgR陰性例は無効と判定

 対象はカナダ、スイス、米国、英国で登録した高リスク非転移性乳がんに対する標準治療を受け糖尿病がない18~74歳の患者3,649例(平均年齢52.4歳、女性99.8%、患者登録割合:カナダ34%、米国60%、スイス・英国6%)。

 適格基準は前記に加え、登録の前年度に診断された乳がん(病期分類T1〜T3、N0〜N3、M0)に対して標準治療を施行し(2010年8月~13年3月)、T1cN0例では条件〔組織学的グレード3、リンパ管浸潤、ホルモン受容体(ER/PgR)陰性、ERBB2陽性、Oncotype Rescue Score 25以上、Ki67が14%以上〕のうち1つ以上を満たす者とした。

 2,382例が登録された2012年5月以降に適格基準の改訂が行われ、T1cN0例ではトリプルネガティブ(ER陰性、PgR陰性、ERBB2陰性)が、T2N0例では高リスクの特徴を有することが必須となった。  

 乳がん術後の治療として、放射線療法、ホルモン療法、分子標的薬による抗HER2療法は施行可とした。 対象をメトホルミン850mg/日を投与するメトホルミン群(1,824例)とプラセボ群(1,825例)に1:1でランダムに割り付け、①ER/PgRの状態(陽性/陰性)、②BMI(30未満/30以上)、③ERBB2(陽性/陰性)④化学療法(あり/なし)―で層別化。主要評価項目は、ホルモン受容体陽性乳がんにおける無浸潤生存(iDFS)とし、2020年10月まで追跡した。

 2回目の中間解析でER/PgR陰性例はメトホルミンが無効(P>0.49)と判断されたため、主解析はER/PgR陽性患者2,533例〔追跡期間中央値96.2カ月(範囲0.2~121カ月)〕を対象とした。ただし、ER/PgR陰性例ではメトホルミン投与を中止したものの、盲検化および追跡は継続し、追加解析が計画された。

メトホルミン群で死亡の有意な減少は認められず

 ER/PgR陽性例ではiDFSは465例に認められた。解析の結果、100人・年当たりiDFSイベント発生率はメトホルミン群が2.78、プラセボ群が2.74で、プラセボ群に対するメトホルミン群の有益性は認められなかった〔ハザード比(HR)1.01、95%CI 0.84~1.21、P=0.93〕。100人・年当たりの死亡者数は、メトホルミン群が1.46、プラセボ群が1.32と、有意な減少は見られなかった(同1.10、95%CI 0.86~1.41、P=0.47)。

 なお、ER/PgR陰性例(追跡期間中央値94.1カ月)における100人・年当たりのiDFSイベント発生率は、メトホルミン群が3.58、プラセボ群が3.60と、有意差はなかった(HR 1.01、95%CI 0.79~1.30、P=0.92)。

 有害事象について、グレード3以上の非血液毒性の発現頻度はプラセボ群に比べメトホルミン群で有意に高かった(17.5% vs. 21.5%、P=0.003)。両群で見られた一般的なグレード3以上の有害事象は、高血圧(プラセボ群1.9% vs. メトホルミン群2.4%)、月経不順(同1.4% vs. 1.5%)、下痢(1.9% vs 7.0%)だった。

 以上の結果を踏まえ、Goodwin氏らは「糖尿病を発症していない手術可能な高リスク乳がん患者において、乳がん標準治療へのメトホルミン上乗せはプラセボ群に対するiDFSの有意な改善が得られなかった」と結論している。

(田上玲子)