がんの診断・治療に際しては、がん組織と正常組織を正確に区別することが極めて重要である。診断は主に熟練者による顕微鏡を用いた細胞や組織の形態的な判別に頼らざるをえなかった。しかし、がん組織と正常組織の中間のような性質を示す組織では、診断が難しいケースがしばしばあった。宮城県立がんセンター研究所がん幹細胞研究部の藤井慶太郎氏らの研究グループは、食道がんの大半を占める扁平上皮がんを特異的に検出できる新たな抗体G4B1の開発に成功したとCancer Sci2022年4月19日オンライン版)に発表した。

鑑別困難例ににおける有効な一手

 食道がんの大半を占める扁平上皮がんは、主に顕微鏡での形態観察によって判別されるがん種の1つであり、飲酒や喫煙などの環境因子の影響で発がんリスクが上昇する。また遺伝子変異が比較的複雑であることから、正常組織との鑑別が難しい。そのため、がん細胞に特異的に発現する蛋白質などの有効なマーカーが求められていた。

 扁平上皮がんでは糖蛋白質CD271が発現しており、CD271が高発現している扁平上皮がんでは悪性度が亢進していることが示されていた。しかし、CD271は、食道の正常な扁平上皮にも存在することから、がんの診断・治療に応用することは困難だった。

がん・正常組織を明確に区別し、がん症例のみ検出

 研究グループはこれまで、がん組織と正常組織の両方に存在する蛋白質において、糖蛋白質の糖鎖修飾が決定的に異なることを見いだしていた。そこで糖鎖修飾の違いに着目し、がん組織に特異的な糖鎖修飾を持つCD271のみを認識する新たな抗CD271抗体であるG4B1を開発した。

 正常組織、上皮内腫瘍(IEN)組織、扁平上皮がん組織を用いてG4B1抗体の検出能を検証した。その結果、従来の抗CD271抗体は正常組織にも陽性を示したのに対し、G4B1抗体はがん組織のみを検出することができた()。

図. 扁平上皮がんにおけるCD271糖蛋白質の検出


 G4B1抗体は正常組織においてCD271を検出しないのに対し(図-左上)、従来の抗CD271抗体では正常組織でもCD271を検出してしまう(図-右上)。

(東北大学プレスリリースより)

 このようにG4B1抗体は扁平上皮がんの陽性的中率が高く、診断精度の向上が期待される。

下咽頭がん、子宮頸がんへの応用も期待

 また、同じく扁平上皮がんである下咽頭がん、子宮頸がんについても、G4B1抗体はがん組織のみを検出できることが確認された。G4B1抗体がCD271に結合する機序を詳しく調べた結果、G4B1抗体はCD271のシアル酸・O型糖鎖による糖鎖修飾と、その立体構造を認識していることが明らかになった。

 研究グループは「がん特異的な糖鎖修飾を持つ糖蛋白質CD271に着目することで、がん細胞で発現するCD271のみを高精度に検出できるG4B1抗体の開発に成功した。下咽頭がん、子宮頸がんにおいても同様の検出能が示された」と結論。「今回の結果から、食道がんの診断精度の向上や抗体治療へのG4B1抗体の応用が期待される」と述べている。

(小野寺尊允)