幅広いがん種に対し使用されている免疫チェックポイント阻害薬は、自己免疫性の副作用を来すことが知られている。中でも同薬によって誘発される1型糖尿病では、インスリン産生細胞が傷害され血糖コントロールが極めて不良となり、合併症の進行など患者のQOLおよび予後に重大な影響を及ぼすが、有効な予防・治療法は確立されていない。大阪大学の堀谷恵美氏、同大学肥満脂肪病態学寄附講座講師の喜多俊文氏、同大学内分泌・代謝内科学教授の下村伊一郎氏らの研究グループは、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(hMSC)が産生するエクソソームなどの液性因子を介して、免疫チェックポイント阻害薬投与による1型糖尿病の発症を抑制しうることを動物モデルで見いだした。研究の詳細はDiabetologia (2022年5月5日オンライン版)に掲載された。
MSC由来エクソソーム、サイトカインが免疫細胞浸潤を抑制
間葉系幹細胞治療は組織再生、抗線維化、免疫調節機能をもたらす再生医療だが、研究グループはこれまでに、MSCが産生するエクソソームによって心不全モデルの心機能が改善したことなどを報告している(Mol Ther 2020; 28: 2203-2219)。今回、研究グループは、MSC治療が免疫チェックポイント阻害薬により誘発される1型糖尿病の発症を予防できるかをマウスモデルを用いて検討した。
通常は糖尿病を発症しない雄性NODマウスを抗PD-L1抗体腹腔内投与のみのhMSC非投与群、抗PD-L1抗体投与およびhMSC尾静注投与群、対照群に割り付けたところ、hMSC非投与群では64%(25匹中16匹)で糖尿病が誘発されたが、hMSC投与群では19%(12匹中4匹)にとどまった。
抗PD-L1抗体投与により膵島におけるCD3陽性T細胞(6.2倍)、Mac-2抗原(2.5倍)、CXCL9陽性マクロファージ(40.3倍)が有意に増加し、膵β細胞インスリン産生細胞間隙にT細胞および通常は膵島β細胞領域に存在しないCXCL9陽性マクロファージの浸潤が見られた。しかし、hMSC尾静注投与群ではこうした免疫細胞の増加や浸潤が阻止された。インスリン含有量と膵β細胞面積もhMSC尾静注投与群では改善が認められた。なお、こうした免疫細胞浸潤は、免疫チェックポイント阻害薬投与後に1型糖尿病を発症したヒト膵島標本においても認められた。
また、注入されたhMSCの局在を調べたところ、肺組織に大量に局在していたが、膵には見られなかった。hMSCの投与により血漿エクソソーム濃度のマーカーであるAlix、hCD63、hMFG-E8、Synteninの有意な増加、IL-6、IL-8の増加など血漿サイトカインプロファイルの変化が確認された。
これらのことから研究グループは、hMSCが産生するエクソソームなどの液性因子を介して1型糖尿病の発症を抑制しうることを発見したと結論。「免疫チェックポイント阻害薬により誘発される1型糖尿病は致命的となりうるにもかかわらず、これまで根治的な治療法がなかった。今回の発見により、抗がん薬治療の副作用である1型糖尿病で苦しむ人が少しでも減ることを願っている。また、今後、MSC治療がさらに多くの疾患に応用されることを期待する」とコメントした。
(編集部)