新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する免疫プロファイルは、ワクチン接種とさまざまな系統/変異株による感染の組み合わせによりさまざまであり、特に多数のスパイク変異を持ち従来株と比べ感染力と免疫回避能が強いとされるオミクロン系統の出現によって、特定の集団における防御免疫はますます多様化している。国立感染症研究所は5月18日、mRNAワクチンを2回接種した後にアルファ系統またはデルタ系統のSARS-CoV-2に感染(ブレークスルー感染)した人は、ワクチンを2回接種し感染していない人に比べ、オミクロン系統に対し高い血清中和抗体価を有すること、ワクチン接種からブレークスルー感染までの期間が長いほどオミクロン系統を含むSARS-CoV-2変異株に対する血清中和抗体価が高く誘導されることが示されたとの研究成果を公式サイトで紹介した。詳細はMed (2022; 3: 249-261. e4.)に掲載されている。

ワクチン2回接種後ブレークスルー感染例の血清を用いて検討

 初めに研究グループは、SARS-CoV-2への多様な免疫歴を持つ集団におけるオミクロン系統の免疫回避リスクを評価するため、ファイザー製mRNAワクチン(トジナメラン)を2回接種した医療従事者20人から2回目接種後初期(中央値31.5日)と後期(中央値150.5日)に血液を採取し検討した。その結果、オミクロン系統に対する中和活性は、従来株と比べ接種後初期および後期のいずれも著しく低下していた。

 次に、ワクチン2回接種後にアルファ系統またはデルタ系統によるブレークスルー感染した症例の回復期(感染から10〜22日後)に採取した血清を用いて中和活性を調べたところ、従来株と比べてデルタ系統に対する中和活性は高かったが、ベータ系統、オミクロン系統ではそれぞれ−3.8倍、−9.7倍と顕著に低かった。しかし、ブレークスルー感染のないワクチン接種者とは異なり、ブレークスル感染例のほとんどの血清からオミクロン系統に対する中和活性が検出され、中には他の変異株と同程度の中和活性が見られるケースもあった。従来株に対する中和活性の低下の程度には大きな個人差が認められた。さらに、オミクロン系統に対する交叉中和活性は、アルファ系統と比べデルタ系統によるブレークスルー感染例において高い傾向が見られた。

 これらのことから、オミクロン系統を含む他の変異株に対する交叉中和抗体の誘導には、デルタ系統によるブレークスルー感染が有益であることが示された。ただし、アルファ系統とデルタ系統は流行時期が異なるため、ワクチン接種からブレークスルー感染までの期間にはばらつきが見られた。特に、デルタ系統によるブレークスルー感染例の半数は、ワクチン接種から60日以上経過後に生じていた。

交叉免疫はワクチン2回接種からブレークスルー感染までの期間と相関 

 続いて、ブレークスルー感染例における変異株に対する交叉中和活性のばらつきの要因を検討するため、各変異株に対する中和活性とワクチン2回目接種からブレークスルー感染までの期間との関係を評価した。その結果、従来株およびオミクロン系統を含む各変異株に対する中和活性とワクチン接種からブレークスルー感染までの期間に正の相関が認められ、オミクロン系統でより強い傾向が示された。

 さらに、中和活性の質を評価するため、ブレークスルー感染例の血清における中和力指数(NPI:ウイルスに対する中和力価を、ウイルスに対し抗体回避を誘発する受容体結合ドメインを認識する免疫IgG力価で除して算出)を検討した。NPIは従来株と比べオミクロン系統で有意に高かった。そしてオミクロン系統に対するNPIと接種から感染までの期間の関係を検討したところ、前述の中和活性と同様に正の相関があり、接種から感染までの期間が長いほどNPIが高く、抗体の質が高いことが明らかになった。

 研究グループは、「中和抗体価が従来株や変異株に対する防御能と相関することを示す証拠が得られている。ブレークスルー感染では幾つかのSARS-CoV-2系統に対して強固な交叉中和抗体反応が得られたが、ワクチン接種から感染までの期間が長いほどメモリーB細胞が成熟し(Sci Immunol 2022; 7: eabn8590)、感染によって中和抗体産生が誘導されたもの」と考察。「今回の研究では、ワクチン接種からブレイクスルー感染までの期間が長いほど、オミクロン系統に対する交叉中和能が増強されることが明らかになった。オミクロン系統や将来の変異株に対する集団の免疫力は、既存の変異株への曝露の程度、利用可能なワクチンの種類、ワクチン2回接種率、ブースターワクチンの有無などさまざまな環境下でさらに多様化すると考えられる」と結論している。

 なお、国立感染症研究所は研究の解釈上の留意点として、以下のように注意を促している。

※本研究はブレークスルー感染の免疫応答から、集団免疫や免疫誘導の理解のために実施されたものであり、ブレークスルー感染を3回目ワクチン接種の代替とすることを支持するものではありません。ブレークスルー感染にも、ウイルス感染による発症及び重症化、他者への感染のリスクが伴います

編集部