自民党内で有力議員同士による夜の会合が活発化している。新型コロナウイルス感染が落ち着いてきたからか、岸田文雄首相が積極的に動き始めると、触発されたように安倍晋三元首相、麻生太郎副総裁らも追随。会食相手は非主流派にも及び、党内では夏の参院選後の主導権争いに向けた布石との見方もささやかれる。
 「岸田さんは酒が強い。酔ったところを見たことがない」。安倍氏と二階俊博元幹事長が互いの派閥メンバーを同席させた今月1日の会食は、酒豪で知られる首相を酒のさかなに盛り上がった。最後は連携して参院選を乗り切ろうと意気投合したという。
 3月22日にまん延防止等重点措置が全面解除されると、有力議員の夜の会食が目立って増加した。4月に入りまずは首相が二階氏、安倍氏、森山裕前国対委員長らを次々に誘った。今月は来週にも昨年の党総裁選で自身を支えた議員と会う予定だ。
 安倍氏も先月から今月にかけ、麻生氏、菅義偉前首相、二階氏らとそれぞれ夕食を共にした。5月31日には行きつけのフランス料理店に菅氏を招待。麻生氏も安倍氏に先立つ5月23日に菅氏と会合を持った。その4日後には再び菅氏を夫妻で私邸に招くもてなしぶりだった。
 組み合わせを変えて別々に会食を重ねるのは、互いの立場や思惑が異なるためだ。例えば、首相が非主流派の二階氏との食事に踏み切ったのは、党内融和を演出し、参院選へ挙党態勢をアピールする狙いがある。
 一方、安倍氏が二階氏や菅氏と関係を深めようとする背景には、首相が参院選に勝利して力をつければ自らの影響力が低下しかねないとの懸念があるとみられる。首相周辺は安倍氏の動きについて「首相の独走を警戒し、非主流派との連携で対抗しようとしている」と見る。
 麻生氏も菅氏への接近に余念がない。安倍氏とは「菅氏は大事な存在」との認識で一致しているというが、麻生氏は首相の後見役で、菅氏に対する視線は微妙に異なる。
 首相が参院選を乗り切れば、次の大型国政選挙まで当面は政権運営に専念できる環境が整う見通し。ただ、有力議員はそれぞれ自らの影響力を強めようと動きだすとみられる。党内では選挙後をにらんだ腹の探り合いが続きそうだ。 (C)時事通信社