ウイルス性肝炎は進行すると肝細胞壊死に続いて肝線維化が起こり、線維化の進展とともに肝硬変に至る。肝硬変患者では肝不全への進行や肝細胞がんの発症が大きな問題となるため、これらの抑制につながる治療薬の開発が望まれている。がん・感染症センター都立駒込病院肝臓内科部長の木村公則氏らは、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)に起因する肝硬変の患者を対象に、抗線維化作用が示唆されているCREB結合蛋白質(CBP)/β-catenin阻害薬PRI-724の安全性と有効性を評価するため、医師主導による多施設共同のオープンラベル非ランダム化比較第Ⅰ/Ⅱa相試験を実施。PRI-724投与後に肝生検に基づく肝組織線維化面積の減少は認められなかったが、FibroScanで測定した肝硬度の低下が示され、一部の患者ではChild-Pugh分類がBからAに改善するなど、有望な結果が得られたことをEBioMedicine(2022年5月20日オンライン版)で報告した。

C型肝硬変患者で肝線維化の抑制を確認

 肝臓はウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、飲酒、自己免疫などにより持続的に障害されると線維化が徐々に進み、最終的に肝硬変に至る。特に肝硬変が代償性から非代償性に進行すると食道静脈瘤感染症腹水などの合併症が起こりやすく、肝不全への進行や肝細胞がんの発症リスクが大きな問題となる。そのため、肝不全や肝細胞がんの発症抑制につながる肝硬変の治療薬開発が望まれてきた。

 木村氏らが着目したのは組織・臓器での線維形成に関与するWnt/β-cateninシグナル伝達だ。同氏らによると、これまでの研究で肝臓の他、肺や腎臓、皮膚など複数の臓器における線維化にWnt/β-catenin経路の活性化が関与していることが示唆されている。また、マウスを用いた研究では、CBPとβ-cateninの相互作用を阻害することによる肺および腎臓の線維性障害の改善が認められている。さらに同氏らは、PRI-724が肝線維症マウスモデルで肝星細胞の活性化の抑制やマクロファージの誘導などによる抗線維化作用を示したとする研究結果を報告している他、HCV陽性の肝硬変患者を対象とした医師主導による第Ⅰ相試験を実施し、一部の患者の肝生検で同薬による線維化の抑制を確認している。

第Ⅱa相試験では肝組織線維化面積の変化量を評価

 今回の第Ⅰ/Ⅱa相試験は、HBVまたはHCVに起因する肝硬変患者におけるPRI-724の安全性、忍容性、抗線維化作用などの評価を目的に実施された。2018年7月27日~21年7月13日に国内3施設で、①HBVまたはHCV陽性、②スクリーニング時の肝生検肝硬変と確定診断されている、③20歳以上74歳以下-などの基準を満たした患者27例(第Ⅰ相試験15例、第Ⅱa相試験12例)を登録し、第Ⅰ相試験ではPRI-724を140mg/m2/4時間(3例)、280mg/m2/4時間(6例)、380mg/m2/4時間(6例)のいずれかの用量で週2回、12週間にわたって静脈内投与した。

 続いて第Ⅱa相試験では、第Ⅰ相試験の結果に基づき決定された推奨用量280mg/m2/4時間を静脈内投与した。なお、第Ⅰ相試験で280mg/m2/4時間を投与した患者のうち同意が得られた3例に治療後にも肝生検を施行し、第Ⅱa相試験における有効性および安全性の評価を行ったため、第Ⅱa相試験では計15例(HCVによる肝硬変9例、HBVによる肝硬変6例)を対象に解析を行った。

 主要評価項目は、第Ⅰ相試験では安全性、忍容性、用量に限定された毒性、第Ⅱa相試験では治療後12週時の肝生検に基づく肝組織線維化面積割合のベースラインからの変化量とした。

 患者の平均年齢は、第Ⅰ相試験の140mg群で61歳、280mg群で62歳、380mg群で60歳、第Ⅱa相試験の参加者で67歳だった。

肝機能の改善も示唆

 解析の結果、安全性に関しては、第Ⅰ相試験と第Ⅱa相試験を通じて最も頻度の高かった有害事象と副作用は消化器症状と肝機能障害であった。また、第Ⅰ相試験の380mg群のうち2例に重篤な有害事象(ウイルス感染、肝機能障害)が発生した。ウイルス感染についてはPRI-724投与との関連が否定されたが、肝機能障害については関連の可能性を排除できなかった。ただし、推奨用量である280mg群では肝機能障害は少なく、一過性に終わった。

 有効性は、第Ⅱa相試験の参加者のうち肝生検が施行されなかった1例を除いた14例を対象に検討した。肝組織線維化面積割合はベースライン時の平均0.1472±0.0896%(中央値0.1111%)に対して12週時には平均0.1778±0.1141%(中央値0.1600%)となり、有意な減少は認められなかったほか、肝小葉線維化面積割合についても有意な変化は認められなかった。

 一方、副次評価項目のうちFibroScanで測定した肝硬度(LSM)に関しては、ベースライン時の平均21.45±8.35kPaに対して12週時には平均16.55±4.47KPaとなり、4.90±6.51kPaの有意な低下が認められた(P<0.05)。また、Model for end-stage liver disease(MELD)スコアもベースライン時と比べて12週時には平均-0.9±1.4の有意な低下が示された(P<0.05)他、血清アルブミン値および血清総ビリルビン値の改善も認められた。さらに、ベースライン時にChild-Pugh分類でBと判定されていた7例のうち2例は12週時に同分類Aに改善していた。

 以上を踏まえ、木村氏らは「LSMの他、MELDスコアやChild-Pugh分類といった肝機能のエンドポイントの評価から、PRI-724には肝硬変患者に対する治療効果がある可能性が示された。しかし、肝組織線維化の抑制に関してはPRI-724の効果は確認できなかった」と結論。「今後、肝硬変患者における同薬の抗線維化作用について、さらなる検討が必要」としている。

(岬りり子)