若年層の自殺予防に関する取り組みとして、治療用スマートフォンアプリは有効かー。オーストラリア・University of New South WalesのMichelle Torok氏らは、治療用スマホアプリ「LifeBuoy(ライフブイ)」を用いた二重盲検ランダム化比較試験(RCT)を実施し、結果をPLoS Med(2022; 19: e1003978)に報告した。
対象は自殺念慮がある18〜25歳の455人
世界保健機関が2018年に発表したデータによると、世界における自殺者の約3分の1を15〜29歳の若年層が占めているという(LIVE LIFE: Preventing Suicide, WHO 2018)。若年層の自殺率は多くの国で上昇しており、オーストラリアも例外ではないとTorok氏ら。そこで、近年注目されているスマホアプリによる自殺念慮への介入効果に着目し、LifeBuoyの有効性を検証する二重盲検RCTを実施した。
対象は、2020年5月にソーシャルメディアやFacebookのターゲット広告を通じて募集した同国在住の若年層(18〜25歳)455人。女性が84.4%(384人)を占め、平均年齢は21.5歳だった。過去12カ月間に自殺念慮を抱き、スマホを保有していることなどを組み入れ条件とした。応募前1カ月以内の自殺企図者、精神病または双極性障害患者などは除外した。
455人をLifeBuoyを使用する介入群228人と、LifeBuoyを模したアプリを使用する対照群227人にランダムに割り付け、6週間使用後の自殺念慮抑制効果を比較した。LifeBuoyは認知行動療法の一種である弁証法的行動療法(DBT)を基に、感情調整や苦悩耐性のスキル向上を目的として構築されたスマホ用アプリ。DBTは、若年層における自殺念慮および企図を抑制する効果が報告されている(J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 2015; 54: 97-107)。
自殺念慮評価スコアが有意に改善
両群における自殺念慮評価(SIDAS;Suicidal Ideation Attributes Scale)スコアの変化を比較した。その結果、ベースラインからアプリ使用終了時にかけてのSIDASスコアの変化は、介入群が−8.05点(95%CI −9.92〜−6.18点、P<0.001)、対照群が−3.14点(同−5.04〜−1.23点、P=0.001)と、介入群でスコアの減少(改善)幅が有意に多かった(P<0.001)。
また、アプリ使用終了から3カ月時の評価でも同様の結果が得られた(介入群−1.30点 vs. 対照群−0.34点、P=0.007)。ただし、抑うつや不安などメンタルヘルスに関する評価スコアに両群で差はなかった。さらに、SIDASスコア21点以上を高リスク群として比較したところ、アプリ使用終了時、使用終了3カ月時ともに介入群より対照群で高リスク者の割合は有意に高かった(順にP<0.001、P=0.04)。
以上から、Torok氏らは「LifeBuoyは若年層における自殺念慮を低減させる可能性が示唆された。しかし、他のメンタルヘルス問題に対する効果は示されなかった」と結論。「デジタル治療は、ターゲットを1つに絞ったデザインにすることでより効果を発揮するかもしれない」と考察している。
(松浦庸夫)