現在、感染力の強い新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株BA.2が世界的に流行の主体となる一方で、アフリカでは新系統のBA.4およびBA.5(BA.4/5)の新規感染報告が急増している。BA.4/5はスパイク蛋白質のアミノ酸配列が同一で、BA.2から進化したとみられ世界的な流行拡大が懸念されている。アストラゼネカは長時間作用型抗体カクテル療法tixagevimab+cilgavimab(商品名Evusheld、以下、AZD7442)について、英・オックスフォード大学の研究チームがBA.4/5を対象に偽型ウイルス非臨床試験で検討した結果、中和活性の保持が示されたと公式サイトで発表した。試験結果はbioRxiv(2022年5月21日オンライン版)に掲載されている。
免疫不全者へのAZD7442のベネフィット
世界人口の約2%に当たる1億5,908万人は、SARS-CoV-2ワクチンを接種しても十分な免疫応答効果が得られないと推定されている。これらの中には、がん患者、臓器移植施行または免疫抑制薬を使用中などの免疫不全状態の患者も含まれる。そのような新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発症リスクが高い人々において、AZD7442はベネフィットをもたらす可能性があるという。
既報の結果と一貫
AZD7442はSARS-CoV-2感染者から提供されたB細胞に由来するヒトモノクローナル抗体であるtixagevimabとcilgavimabの併用療法。昨年(2021年)12月に米食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を得ており、第Ⅲ相ランダム化比較試験PROVENTの一時解析においてCOVID-19の予防効果が示されている(関連記事「FDA、新規抗体カクテルを緊急使用許可」、「新規抗体カクテルEvusheld、オミクロン株への中和活性を保持」、「長時間作用型抗体薬のコロナ予防効果」)。
BA.4/5はBA.2から進化したとみられ、両者の遺伝子変異には多くの共通点が認められる一方で、BA.4/5は69/70欠失、L452R、F486V変異を有するという特徴がある。L452R変異は免疫逃避との関連が報告されており、BA.4/5の大規模流行が懸念される。
そこでオックスフォード大学の研究チームは、偽型ウイルス非臨床試験を実施し、オミクロン株の亜種系統に対するワクチンや抗体薬の中和活性を検討した。その結果、AZD7442はBA.4/5に対し中和活性を保持することが示され、これまでの複数の試験で得られた、全てのSARS-CoV-2変異体を中和するという結果とも一貫していた。
試験結果を踏まえ、アストラゼネカシニアバイスプレジデント兼ワクチンおよび免疫療法・後期開発担当のJohn L. Perez氏は「AZD7442はSARS-CoV-2の異なる部位を認識し、ウイルスの急速な変異に対して効力が保持できるよう開発・設計されている。今回、BA.4/5に対する中和活性が示されたことで、SARS-CoV-2ワクチン接種で十分な免疫応答が得られず、疾患リスクが高いとされる人々の重要な選択肢になる」と述べている。
(小野寺尊允)