国内で引きこもり状態にある人(以下、引きこもり者)は110万人以上いると推定される。海外でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に伴い急増しており、社会現象となっている「Hikikomori」への対策が喫緊の課題となっている。九州大学病院検査部の瀬戸山大樹氏らは、引きこもり者の血液中の代謝物や脂質を測定し、引きこもり者に特徴的な血液バイオマーカーを発見。さらに、血液データと臨床データを基に機械学習アルゴリズムを作成し、高い精度でひきこもり者を識別するとともに、重症化予測が可能になったとの研究結果をDialogues Clin Neurosci(2022年6月1日オンライン版)に発表した。
オルニチン高値、アルギニン低値などの特徴
引きこもりはオックスフォード英語辞典にも記載されており、日本発の社会現象として世界的に認知されている。これまで、社会的引きこもりは6カ月以上自宅にとどまるといった特徴に基づき評価されてきたが、厳密な診断基準はなく、客観的指標により評価する試みはなされてこなかった。そこで、世界初の「引きこもり研究外来」を有する同大学の研究グループは、引きこもり者を特徴づけるバイオマーカーを探索するため、未服薬の引きこもり者41人と年齢、性をマッチングさせた健常者42人(平均年齢30.2歳)を対象に、一般的な生化学検査および血漿メタボローム解析を実施した。
その結果、引きこもり者では健常者と比べ、オルニチン値、長鎖アシルカルニチン値が有意に高く(P<0.001)、ビリルビン値、アルギニン値が低かった(それぞれP<0.007、P<0.001)。また、男性ではアルギナーゼの有意な高値も認められた(P<0.05)。アルギナーゼはアルギニンを基質として、オルニチンと尿素を生成する反応を触媒する血中酵素として知られる(図)。
図. 引きこもりと関連する血液バイオマーカー
(九州大学プレスリリースより)
機械学習判別モデルで引きこもりの重症化予測が可能に
また血液バイオマーカーに関する情報と臨床データを基に、機械学習のアルゴリズムであるランダムフォレストによる機械学習判別モデルを作成したところ、引きこもり者と健常者を高い精度で判別できることが分かった〔ROC曲線下面積0.854(95%CI 0.648~1.000)〕。さらに、部分最小二乗法(PLS)-回帰モデルによって、引きこもりの重症度についても高い精度で予測できることが分かった。
加えて、引きこもり者を重症度別に3群に層別化(クラスター分類)し、重症度に寄与する血液成分を解析したところ、尿酸値(P=0.014)とコレステロール値(P<0.013~0.043)が有意なマーカーとして新たに同定された。
以上を踏まえ、瀬戸山氏らは「引きこもりは『甘え』『恥』といった社会的な側面ばかりが注目されてきた。われわれの研究により、生物学的な因子が同定されることで、栄養療法などの生物学的なアプローチが可能となるだけでなく、引きこもりへの偏見も解消されることを願っている」とコメントしている。
(植松玲奈)