長時間労働による心身への悪影響が指摘されて久しいが、両者の直接的な関連については明らかでない。東京医科大学精神医学分野の渡邉天志氏、兼任講師の志村哲祥氏らは、一般企業で実施されたストレスチェックなどのデータを基に両者の関連を検討した結果、直接的な関連は示されなかったとInt J Environ Res Public Health2022; 19: 6715)に報告した。

都内17企業・約3,500人対象に、労働時間や睡眠などを調査

 日本では長時間労働や残業が常態化し、うつ病や過労、自殺を含め心身の健康を損なうケースが問題視されてきた。しかし渡邉氏らによると、直近十数年間に総労働時間が減少しているにもかかわらず労働者世代の自殺者数は減少はしていないなど、長時間労働とメンタルヘルス問題との関連には未解明な点が多いという。そこで同氏らは、東京都に所在する17企業の労働者を対象にアンケートを実施、長時間労働とメンタルヘルスの関連を検討した。

 17企業の業種は情報サービス業、ソフトウェア開発業、金融業、放送業、経営コンサルタント業、各種商品卸売業、官公庁、旅行代理業、特許事務所、労働者派遣業。調査対象は、週30時間以上の労働時間を有する社員(パートタイム含む)とした。2017年4月〜18年3月に労働時間、職業性ストレス、食生活について自己申告によるオンライン形式でアンケートを実施。3,559人から回答を得て、そのうち同意が取得できた3,100人を解析対象とした。

 アンケートは、57項目で構成される職業性簡易ストレス調査票(Brief Job Stress Questionaire;BJSQ)、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)、対象者層の特性や1カ月当たりの残業時間、メンタル状態に関する独自の質問票を用いた。対象の主な背景は男性1,927人(62.1%)、平均年齢36.6歳、1カ月の平均残業時間24.4時間、一般的な時間での食事摂取は1,849人(59.6%)だった。

残業時間の多さは食事時間の不規則さと睡眠時間の短縮招く

 解析の結果、残業時間が多い労働者では食事時間が不規則になる傾向が示されたものの、野菜摂取の有意な減少は認められなかった。

 単純相関解析の結果、残業時間と心身のストレス反応(抑うつおよび疲労に関するサブスコアを含む)は弱い正の相関が示された(ピアソンのr係数=0.060、P=0.001)が、残業時間と抑うつサブスコアに直接的な関連は確認されなかった(標準化パス係数=0.003、P=0.871)。一方、残業時間は食事時間の不規則さおよび睡眠時間の短縮と関連し(同0.199、P<0.001)、それにより抑うつや心身のストレス反応などを生じさせることが示唆された(同0.239、P<0.001)。

 以上から、渡邉氏らは「長時間労働は心身のストレス反応に直接的な影響は及ぼさないものの、長時間労働を媒介として食事時間の不規則さと睡眠時間の短縮を引き起こすことが明らかになった」と結論。「たとえ労働時間を削減しても、食事時間の不規則さや睡眠時間の不足が解消されなければ、メンタルヘルスは向上しない」と指摘、「介入研究による因果関係のさらなる解明が必要」と付言している。

編集部