近年、世界的に離婚の増加、晩婚化・晩産化の進行により家族構成が変化しており、日本ではいっそう顕著である。また社会的問題となっているうつ病と家族構成との関連も報告されている。国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクトの研究グループは、多目的コホート研究JPHCのデータを用いて家族構成とうつ病との関連を調べた結果をTransl Psychiatry2022; 12:156)に発表。子供との同居とうつ病リスク低下に関連が認められ、男性でのみ有意差が示された。

同居家族で分類して検討

 欧米の先行研究において、独居がうつ病リスクを高めることが報告されている。しかし、家族構成とうつ病の関連についての研究はほとんどない。さらに既報の大半が、うつ病を自己申告の質問票で評価しており、精神科医が診断したうつとの関連を検討した研究はなかった。そこで研究グループは、家族構成(配偶者、子供、親との同居の有無)と精神科医により診断されたうつ病との関連を調査した。

 対象は1990年に長野県佐久保健所管内の南佐久郡8町村に在住していた40~59歳の約1万2,000人のうち、同年に実施したアンケートに回答し、かつ2014~15年に実施した「こころの検診」に参加した1,254例。アンケート結果から、家族構成で①配偶者との同居、②子供との同居、③親との同居-に3分類。ロジスティック回帰モデルで年齢、性、喫煙状況、飲酒状況、睡眠時間、職業、教育歴、既往歴(がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病)を調整し、うつ病発症のオッズ比(OR)を算出した。

子供と同居するグループはうつ病リスクが低下

 追跡期間中に105例(男性36例、女性69例)が精神科医によってうつ病と診断された。解析の結果、子供との同居とうつ病リスクの低下に関連が認められた(OR0.53、95%CI 0.32~0.85)。ただし有意なリスク低下は男性でのみ見られ(同0.42、0.19~0.96)、女性では低下傾向にあるものの有意差はなかった(同0.59、0.39~1.09)。この関連は配偶者や親との同居を調整後も一貫していた。一方、配偶者または親との同居とうつ病リスクに関連は認められなかった()。

図. 同居家族の形態とうつ病リスク

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(国立がん研究センタープレスリリースより引用)

 研究グループは「今回の対象には単身者が少なく、独居とうつ病発症との関連は調査していない。参加者は当該地域の人口の14%であり、結果を一般に当てはめることはできない。精神疾患の家族歴や収入などの情報は収集しておらず残存交絡因子の影響は排除できない」と研究の限界を挙げたうえで、「子供との同居とうつ病リスクの低下に関連が示された」と結論。「2016年版厚生労働白書では、老後に不安なことの第1位が健康上の問題、第2位が経済上の問題と報告されている。1970年代以降、独居の世帯や高齢の親と同居している世帯の割合が増加しているが、子供との同居により社会的・経済的支援を受けられやすいことが、ストレスの緩和やうつ病の予防につながった可能性がある」と考察している。

(小野寺尊允)