社会的孤立や孤独は深刻であるにもかかわらず、十分に認識されていない公衆衛生上の問題だ。中国・復旦大学のChun Shen氏と英・University of Cambridge、英・University of Warwickの研究グループは、社会的孤立や孤独と認知症発症の関連を検討する目的で、英国のUK Biobankコホートを対象とした12年間の追跡調査を実施。その結果、社会的孤立は認知症発症リスクを26%高めること、社会的孤立は脳の灰白質量の減少を介して認知症発症に関連することをNeurology (2022年6月8日オンライン版)に報告した。

孤独感と認知症の関連の75%がうつ症状に起因

 対象は、大規模縦断コホート研究であるUK Biobankに参加した46万2,619人。ベースライン時の平均年齢は57.0歳で、4万1,886人が社会的に孤立していると回答、2万9,036人が孤独感を有していた。月1回以上の友人や家族との面会、週1回以上の社会活動(ボランティア活動や趣味の集まり、集会など)の有無などを問う3つの質問中2つになしと回答した場合を社会的孤立と定義した。平均11.7年の追跡期間中に4,998人が認知症を発症し、発症率は社会的孤立者で1.55%(4万1,886人中649人)、非社会的孤立者では1.03%(42万733人中4,341人)だった。

 年齢、性、社会経済的要因、飲酒、喫煙、慢性疾患(糖尿病、がん、心血管疾患など)、孤独、うつ病、APOE遺伝子型などの危険因子を調整後、社会的孤立者では認知症リスクが26%高まることが示された〔ハザード比(HR)1.26、95%CI 1.15〜1.37〕。一方、孤独感と認知症にも関連が見られたが、うつ病を調整すると有意差は消失(調整HR1.04、95%CI 0.94〜1.16)。孤独感と認知症の関連の75%はうつ症状に起因するものであることが示された。

 さらに、MRIデータが入手できた3万2,263人(平均年齢63.5歳)を解析したところ、社会的孤立者では側頭葉、前頭葉、海馬などの記憶関連領域における灰白質量が減少していた。媒介分析の結果、ベースラインの社会的孤立と追跡調査時の認知機能との関連には灰白質量が寄与することが示された。また、社会的孤立に関連した灰白質量の減少は、アルツハイマー病で発現が低下する遺伝子や、ミトコンドリア機能障害、酸化的リン酸化に関与する遺伝子の発現低下と関連していた。

社会的孤立は認知症の予測因子として利用可能

 これらの結果について、研究グループは「社会とのつながりが希薄という客観的な状態である社会的孤立と、社会的孤立を主観的に認識する孤独は別のものである。どちらも健康上のリスクになりうるが、今回、孤独感ではなく社会的孤立が認知症発症の独立した危険因子であることが示された。これは、英国において社会的孤立が認知症の予測因子あるいはバイオマーカーとして利用できることを意味する」と評価している。

 その上で、研究グループは「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に伴い、社会的孤立状態にある人が増加している。社会的孤立者を特定し、地域社会とのつながりが持てるような社会資源の提供がこれまで以上に重要だ」と指摘。「今回の知見は、高齢者の社会的孤立を防ぎ認知症リスクを低減する環境整備の重要性を示している。今後、パンデミックに伴いロックダウンが行われる場合、個人、特に高齢者が社会的孤立に陥らないように注意すべきだ」と述べている。

編集部