トランスジェンダーおよび性別不適合の若者は、同世代の集団からのいじめ被害、家族の機能不全およびメンタルヘルスケアへのアクセスに対する障壁など、自殺の危険因子を高率で有していると考えられているが、大規模な集団ベースでの研究は不足している。カナダ・University of Ottawa Department of Epidemiology and Community MedicineのMila Kingsbury氏らは、同国の全国調査結果を基に、トランスジェンダーおよび性的マイノリティーの青少年における自殺念慮・自殺企図リスクを同年齢者と比較。さらに、自殺傾向といじめを受けた経験の関係を調査した。その結果、トランスジェンダーの若者の自殺念慮リスクが約5倍、自殺企図リスクが約8倍であることを明らかにした。詳細はCMAJ (2022; 194: E767-E774)に掲載された。
15〜17歳の14.0%が自殺念慮を経験、6.8%が自殺企図経験あり
対象は、カナダにおける青少年の心身の健康に関する全国調査2019 Canadian Health Survey on Children and Youthに参加した15〜17歳の6,800人。過去12カ月間の自殺念慮、これまでの人生における自殺企図経験、魅力を感じる対象(性的嗜好:男性のみ、主に男性、男女とも、主に女性、女性のみ、分からないから選択)、過去12カ月間に受けたいじめ経験と頻度およびネットでのいじめの経験と頻度について郵送法による自記式調査を行った。
大多数(99.4%)が心の性と体の性が一致するシスジェンダーで、トランスジェンダーは0.6%(50人)であった。ほとんどが異性愛者に分類され(78.6%、5,360人)、両性に魅力を感じる割合は14.7%、次いで自らの性的嗜好が分からない4.3%、女性に魅力を感じる女性1.0%、男性に魅力を感じる男性0.8%だった。過去12カ月間に14.0%(980人)が自殺念慮を経験し、6.8%(480人)がこれまでの人生で自殺企図の経験があった。
性的マイノリティーの自殺傾向にいじめやネットいじめによる影響が
シスジェンダーで異性に引かれる若者に対するトランスジェンダーの若者における自殺念慮の相対リスク(RR)は4.95(95%CI 3.63〜6.75)、自殺企図のRRは7.6(同4.76〜12.10)だった。女性に引かれる女性における自殺念慮のRRは3.6(同2.59〜5.08)、自殺企図のRRは3.3(同1.81〜6.06)であった。シスジェンダーで両性に引かれる若者の自殺念慮のRRは2.5(同2.12〜2.98)、自殺企図のRRは2.8(同2.18〜3.68)であった。自分の性的嗜好に疑問を持つ若者における自殺企図経験のRRは2.03(同1.23〜3.36)だった。
状況過程モデルを用いた媒介分析の結果、トランスジェンダーおよびバイセクシャルの青年では、いじめやネットいじめの経験を媒介として、複数の性に引かれることが自殺傾向に有意な間接効果を示すことが明らかになった。このことは、バイセクシャルを含む性的マイノリティーの若者は、いまだにかなりのスティグマやいじめ被害に遭っていることを示しているという。
Kingsbury氏らは、この調査研究について「青少年の性自認とメンタルヘルスの関係に関する唯一の全国研究であり、トランスジェンダーの青少年における自殺企図リスクが5倍とするニュージーランドの報告(Pediatrics 2019;144:e20191183)と一致している」と評価。性的マイノリティーはマイノリティーストレスを経験しやすく、仲間からのいじめ被害や否定的な学校環境を経験するリスクが高い。これらの社会的ストレスは、トランスジェンダーなど性的マイノリティーの若者たちのメンタルヘルスを悪化させ、自殺念慮や自殺企図として表面化するリスクを有している。調査票は性同一性や性的行動ではなく性的魅力を評価している。性的嗜好をカテゴライズされるのを拒否し、より流動的なアイデンティティを受け入れる若者も増えてきているので、人間の性的嗜好とアイデンティティの多様性は幅広いことを認識する必要があるなどと考察。
トランスジェンダーや性的マイノリティーの青少年は、シスジェンダーや異性愛者の青少年と比較して、自殺念慮や自殺企図のリスクが高いことが明らかになった。この知見は、カナダにおける多様な青少年集団の自殺に対処するための、包括的な予防アプローチが必要であることを示していると結論している。
(編集部)