川崎病は乳幼児期に好発する原因不明の全身血管炎で、特に1歳前後の男児に多く見られる。重篤な合併症として冠動脈瘤があり、既存治療で効果不十分な場合に発症しやすいが、治療反応性については明らかでなかった。岡山大学小児医科学分野の八代将登氏らの研究グループは、通常は細胞核の構成因子として存在し、炎症刺激時に放出される核内蛋白質(High Mobility Group Box-1;HMGB-1)およびHMGB-1による炎症の増幅を抑制する血管内皮細胞を保護するヒスチジンリッチグリコプロテイン(Histidine Rich Glycoprotein;HRG)に着目し、難治性川崎病の病態との関連を検討。その結果、川崎病患者では治療経過中に血中HRGが低下してHMGB-1が上昇すると、治療反応が低下することが分かったとModern Rheumatol2022年4月29日オンライン版)に発表した。

患者の8.3%が冠動脈瘤を発症

 川崎病は川崎富作氏が1960年代に報告した疾患で、発生機序は不明だがウイルスや細菌の感染を契機として過剰な免疫反応によって全身性に血管炎が起きると考えられている(関連記事「川崎病に呼吸器系の伝播物質・病原体が関与か」、「複数の微生物が川崎病発症に関連か」)。国内の患者数は2018年に過去最高の1万7,354例を記録。最近は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により減少傾向にあるものの、累計患者数は2020年末時点で42万例を超える(関連記事「川崎病患者数が大幅に減少」、「COVID-19が川崎病患者減少に影響」)。

 深刻な合併症として、川崎病発症後10日ごろに現れる冠状動脈病変(CAL)があり、最新の報告によると8.3%に冠動脈瘤が認められている。そのため、ガイドラインでは遅くとも第7病日までに免疫グロブリン静注療法(IVIG)+アスピリンによる標準治療の開始を推奨しているが、患者の約20%でCAL症状が持続・再発することから、病態の解明と治療反応性のバイオマーカーが求められていた。

 川崎病の主な病態は炎症性サイトカインとケモカインにより誘発される急性全身性血管炎であり、血管内皮細胞の広範な障害が見られCALの病理所見ではしばしば好中球浸潤が認められている。そこで八代氏らの研究グループは、好中球の活動性を抑え血管内皮細胞に保護的に働くHRGと、普段は血管内皮細胞の核内に存在し炎症増幅作用を有するHMGB-1に着目。難治性川崎病の病態との関連を検討した。

 対象は2018年4月~20年3月に国立病院機構岡山医療センター小児科に入院し、親または保護者から研究参加の同意が得られた川崎病患者60例と炎症性疾患、血液疾患、心疾患の既往歴がない健常者48例(対照群)。

 臨床検査値を比較すると、対照群に比べ川崎病患者では白血球数、好血球数、血小板数が有意に多く(全てP<0.001)、ALT(P=0.009)、血清ナトリウム(P<0.001)、総ビリルビン(P=0.002)、C反応性蛋白質(CRP、P=0.001)は有意に高値だった。血中HMGB-1に有意差はなかった(6.0ng/mL vs. 5.9ng/mL、P=0.989)一方で、血中HRGは川崎病患者で有意に低かった(98.5μg/mL vs. 60.0μg/mL、P=0.001)。

治療反応性でHRGとHMGB-1の変化が逆転

 次に川崎病患者60例を発症から①10日目までに解熱した群(治療反応良好群)、②10日目以降も発熱が持続している群(治療反応不良群)―に分けて検討。なお、急性CAL例はいなかった。

 両群とも治療後にCRPやその他のマーカーが改善しており、有意差は認められなかった。一方、治療反応良好群では治療後にHRGが上昇傾向、HMGB-1は有意な低下を示したのに対し、治療反応不良群ではHRGが有意な低下、HMGB-1は上昇傾向と逆の変化を示した()。研究グループは、これらの変化が難治性川崎病の病態を反映していると考察している。

図. 川崎病経過中のHRGとHMGB-1の推移

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(岡山大学プレスリリースより)

 研究グループはこれまで、敗血症患者ではHRGが血管内皮細胞からのHMGB-1の放出を抑制することを明らかにしており、川崎病でも急性期の炎症刺激により血中にHMGB-1が放出されるが、血中HRGが豊富な場合はHMGB-1の放出が抑えられ、血管内皮細胞の障害が軽減すると推定している。

 これらを踏まえ、研究グループは「HRGとHMGB-1は血管内皮細胞の状態を直接的に反映しており、難治性川崎病の病態に深く関与している可能性が示された。血管炎が主病態である難治性川崎病の病態評価にとって有用なバイオマーカーと考えられる」と結論。「血管炎を主病態とする高安動脈炎やベーチェット病などの他疾患でもHRGやHMGB-1の関与が疑われ、難病の病態解明につながる。将来的にはCALを防ぐ目的でHRGを補充する治療への応用も期待できる」と付言している。

(小野寺尊允)