東京大学病院乳腺・内分泌外科の小西孝明氏らは、国内の大規模医療データベースを用いてBMIと乳がんとの関連を調査。45歳未満の女性では、BMIが22以上だと乳がん発症リスクが低いことをBreast Cancer Res Treat(2022年6月4日オンライン版)に発表した。

45歳未満の日本人女性78万人超で検証

 乳がんは、日本人女性のおよそ9人に1人が発症する。欧米ではBMIが高値だと閉経前の乳がんに罹患するリスクが低いとされる一方、日本を含む東アジアでは両者の関連性が不明とされ、むしろBMI高値症例ではリスクが高まる可能性が指摘されていた。

 小西氏らは今回、診療報酬請求明細書・健診のデータを含むJMDC Claim Databaseを用いて、2005年1月~20年4月に健診でBMIを測定した45歳未満の女性78万5,703人を抽出。BMIとその後の乳がん発症リスクとの関連を検証した。

 ベースラインの主な背景は、年齢中央値が37歳、BMI中央値が20.5だった。

HER2陽性では関連が見られず

 中央値で1,034日の追跡期間中に0.71%(5,597人)が乳がんを発症した。喫煙や飲酒などの背景因子を調整し、Cox比例ハザードモデルにBMIを区切ることなく解析可能な制限三次スプライン回帰モデルを組み合わせて解析したところ、BMIが22以上で乳がん発症リスクが有意に低かった()。

図. BMI別に見た乳がん発症リスク

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(東京大学プレスリリース)

 乳がん発症のハザード比(HR)は、BMIが25.0~29.9で0.81(95%CI 0.73~0.89、P<0.001)、30.0以上で0.77(同0.65~0.91、P<0.001)と、BMIが高いほどリスクが低かった。乳がんのサブタイプ別に見ると、ホルモン受容体陽性乳がんでは同様の関連が示された一方、HER2陽性乳がんとの関連は認められなかった。

 小西氏は「日本人女性の90%以上は45歳以降に閉経を迎えるとされるが、今回の結果は、東アジアにおいてBMIが閉経前乳がんリスクに及ぼす影響が欧米と同様であることを初めて示した。乳がん発症年齢のピークは東アジア(40~50歳代)と欧米(70歳代)で異なるが、その原因は分かっていなかった。今回の結果に基づけば、肥満者が少ない日本を含む東アジアでは閉経前の40歳代から乳がんになりやすい一方で、肥満がリスクとなる閉経後乳がんは比較的少ないものと推測できる」と述べている。

 さらに、「人口のBMI分布に基づいた乳がん検診の戦略が求められる。また、乳がんの中でもホルモン受容体陽性乳がんで強い関連が認められたことから、乳がんの発生にBMIに関連するホルモンが強く関与している可能性がある。いまだ不明な乳がん発生のしくみの解明につながることが期待される」と付言している。

(編集部)